一筆法話78

『不是目』(これめならず)



 『釣り吉三平』等の清々しい漫画で知られる矢口高雄氏は、子供の頃の思い
出を次のように語っている。

「私が小学生のある時、体操の時間にマラソンをしました。途中でどうしても
おしっこがしたくなった私が、道をそれ用を済ませて元の道に戻ろうと思った
その時、眼の端をよぎった黄色を捉え、もう一度振り返るとそこには美味しそ
うなキノコがいっぱい生えていた。『先生キノコがいっぱいじゃあ』と呼びか
けると先生はみんなに、『止まれ!』と合図をし皆でキノコ採りをし、それを
学校へ持って帰り、家庭科室でキノコ汁を皆で作って食べました。腹いっぱい
食べた後で先生は、植物図鑑を取りだし今食べたキノコの学名を教えてくれま
した。この時初めて私は、植物には学名があること、そして植物図鑑という名
の本があることを知ったのです。マラソンをして体育を、キノコを採りキノコ
汁を作っては家庭科を、キノコの学名を知って生物をと、今思えば素晴らしい
授業だったと思います」

社会情勢も変わり、昔のようなことを望むのは愚かなことだろうが、学校教育
でも暗記することばかりで、人間の心のはたらきを持たない無色の、のっぺら
ぼうが増えたような気がする。

 そう言えば、ノーベル賞を受賞された白川英樹氏も、小中学生時代までは宿
題もせず飛騨高山の野山を駆け巡ったと思い出を語っておられる。とは言え、
自然の中で遊ぶことのみがその人を育てるとは限らないだろう。同じくノーベ
ル賞受賞者の江崎玲於奈氏は京都で生まれ育ち、自然とのかかわり合いは取り
立ててないと書かれている。それで思い出したのだが、白川氏受賞の折り、利
根川進氏は、やはり今回も外国で評価され日本ではほとんど知られていないこ
とが寂しいと書いておられた。今回の白川氏自身も平成九年の日経産業新聞の
「日本のオリジナリティー」の中で、日本人に独創性がないというのは間違い
だ。米国と日本が異なるとすれば、日本には独創性を潰してしまう土壌がある
ことだと述べておられた。日本では秩序を乱したくないためか個人の特色を出
すことが嫌われる。ちょっと人と変わっているとか、ちょっと頭一つ出るとか、
ちょっと幸せそうだとか、そういう人の足を引っ張る傾向がある。これは劣等
感の表れであり、そういう人に限って世間体だけを気にして生きている無味無
色の人間である。

 「眉且不是目」(眉(まゆ)は且(か)つ是(こ)れ目(め)ならず)

という禅問答を中国の曹山(そうざん)和尚が残しておられる。ある小僧が、
曹山和尚に聞いた、
小僧「眉と目はお互いに識っていますか」
曹山「お互いに識らない」
小僧「何故ですか」
曹山「同じ場所に在るからだ」
小僧「眉と目は分けることが出来ないですね」
曹山「いや、眉は目ではない」
と曹山和尚が答えたのが、「眉は且つ是れ目ならず」である。まだ問答は続く
がそれは置き、ここでは、眉と目はお互いに一緒に住み意識しないで一体とな
っているが、眉は決して目ではないというのが大事である。

 人間は世界中どこで逢っても人間である。他の動物は人間を見て人間だと思
い、恐れる。しかし、同じ人間はいない。なのにドングリのようにどれを取っ
ても皆と同じでなければ許さないとする風潮はどうしたものか。


01  君看よ
02  好事
03  独座
04  皆真なり
05  共に行く
06  好日
07  不食
08  蒼龍の窟
09  家珍
10  風涼し
11  弁じ難し
12  滋味無し
13  月在手
14  無南北
15  短法身
16  這漢
17  同事
18  桃核
19  足別離
20  癡僧
21  元不識
22  不遠
23  不諾
24  也風流
25  無所住
26  阿家牽
27  忘却
28  是非人1
29  是非人2
30  竹一竿
31 斑斑色
32 可憐
33 眞人
34 無慚色
35 不相知
36 三子寒
37 似秋月
38 思鱸客
39 明月夜
40 進一歩
41 千年翠
42 喫茶去
43 殺仏
44 如在
45 声吁吁
46 山高
47 不貪
48 養形
49 夜来雁
50 世上人
51 上樓
52 無暖気
53 嫌揀擇
54 罵李
55 怪力乱神
56 童子不知
57 到遼西
58 火自涼
59 不覚臭
60 無咎
61 為父隠
62 生万物
63 至菩提
64 北枝寒
65 無功徳
66 邯鄲之歩
67 東家杓柄
68 謂之仁
69 諸行無常
70 一期一会
71 問伊
72 乾屎ケツ
73 楚地花
74 吾二親
75 載月明帰
76 竹有節
77 從地起
78 不是目
79 な し
80 な し


説教はイヤだ!体験がいい!坐禅を組む。

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道樹寺 江口 潭渕(たんえん) dojuzi@ktroad.ne.jp