一筆法話76

『竹有節』(たけにふしあり)



 壇家さんの家の前を通り過ぎようとしたら、今年八十歳になるお爺さんが庭
先で盆栽の手入れをしていたので、つい気を許し、

「元気そうやねえ、それにしても見事な松や梅ですなあ」

と言ったら、お爺さんの口元がニヤリとしたかと思うと始まってしまった。
「しまった!」と思ったがあとの祭り、ぼつぼつと話し始め、終いには口から
泡を飛ばして説教調になり、延々と一時間半も盆栽の講義を聞いてしまった。

 松竹梅といえば昔から「歳寒三友」と呼ばれ、日本人にはなじみの深い植物
だ。ちょっと昔までは一般の家庭でも、老人の高尚な趣味としてこうした盆栽
の一鉢や二鉢はあったものである。落語や物語の中だけでなく毎日の生活の中
で老人がハサミを持ちじっと盆栽を睨みながらパチンパチンと枝を剪る姿はよ
く見受けられた。そしてその老人たちは我が子、我が孫のみか道行く人の足を
止め、

「松は風雪に耐え、厳寒にも常に緑を保つため節操ある象徴とされ、竹は折れ
にくいことから不屈の忍耐力を表し、梅は厳寒を耐え忍んで春一番に咲く花の
ため縁起が良いとされ‥‥」

と三友の意味を説き聞かせていたものだ。又かと思いつつも年長者の話を聞け
と言われ、我慢して聞いた人も多いはずだ。

 ところが最近は様変わりし、ガーデニングというのが流行っている。各家の
庭といわず玄関から裏口まで所狭しと赤、青、黄に彩られ、近所や見知らぬ人
とのコミュニケーション(会話と言わないのが面白い)が計られ、大人同士の
良い付きあいになっている、と新聞や雑誌では報道している。草月流の勅使河
原蒼風氏が格調高い生け花に洋花を使った時の非難ごうごうは何処へやら、今
では正月の床の間にも色とりどりの洋花が入れられるのは無論のこと、正月と
言うのに子供が喜ぶからとクリスマスツリーがそのまま飾ってある家も見かけ
る。

 禅寺で昔から好んで使う言葉に、
「松無古今色 竹有上下節」というのがある。
「松に古今(ここん)の色無(な)く、竹に上下の節(ふし)有り」
と読むが、松は百年も二百年も変わらずに夏の猛暑でも冬の大雪にも緑色の葉
をピンと伸ばしている。竹はまっすぐに天に向って伸びていくが、その中にも
ちゃんと節というものが有り、上と下との節度をもって生きている。老人が若
者と肩を並べたがり「お若いですねえ」と言われては鼻の下を長くして喜ぶよ
うになったのもつい最近のこと。昔から老成という言葉があるように老いるこ
とを良くないと捉える思考はなかった。最近は老いることがさも良くないよう
に報道するマスコミという権威に振り回されているような気がする。何も年を
とったら盆栽いじりをしろと言っているのではない。松のように、これまで自
分が生きてきた人生経験の色そのままに生きていく、竹のように節度をもち、
若者のように走り回れないからといって卑屈にならないで生きていくこと、こ
れこそ人生を自分らしく生きる生き方ではないだろうか。


01  君看よ
02  好事
03  独座
04  皆真なり
05  共に行く
06  好日
07  不食
08  蒼龍の窟
09  家珍
10  風涼し
11  弁じ難し
12  滋味無し
13  月在手
14  無南北
15  短法身
16  這漢
17  同事
18  桃核
19  足別離
20  癡僧
21  元不識
22  不遠
23  不諾
24  也風流
25  無所住
26  阿家牽
27  忘却
28  是非人1
29  是非人2
30  竹一竿
31 斑斑色
32 可憐
33 眞人
34 無慚色
35 不相知
36 三子寒
37 似秋月
38 思鱸客
39 明月夜
40 進一歩
41 千年翠
42 喫茶去
43 殺仏
44 如在
45 声吁吁
46 山高
47 不貪
48 養形
49 夜来雁
50 世上人
51 上樓
52 無暖気
53 嫌揀擇
54 罵李
55 怪力乱神
56 童子不知
57 到遼西
58 火自涼
59 不覚臭
60 無咎
61 為父隠
62 生万物
63 至菩提
64 北枝寒
65 無功徳
66 邯鄲之歩
67 東家杓柄
68 謂之仁
69 諸行無常
70 一期一会
71 問伊
72 乾屎ケツ
73 楚地花
74 吾二親
75 載月明帰
76 竹有節
77 な し
78 な し
79 な し
80 な し


説教はイヤだ!体験がいい!坐禅を組む。

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道樹寺 江口 潭渕(たんえん) dojuzi@ktroad.ne.jp