一筆法話73

『楚地花』(そぢのはな)



 ーこんにちは、あなたが病床にあることは人伝てに聞きました。そして私の
「一筆法話」をお読み下さっていることも聞きました。心から嬉しく思い、有
り難く感謝しています。どうか今の生命の瞬間を楽しんで下さい。越後の良寛
さんは、

「災難に逢う時節には災難に逢うがよく候。死ぬる時節には死ぬがよく候。こ
れはこれ災難をのがるる妙法にて候。」

と大地震に見舞われた人への手紙にしたためています。良寛さんは冷たい言い
方をされているようですが、少しばかり見方を変えれば、こんなにも温かい手
紙はないと私は思います。どうして病気になったのだろうかと悔やんだり、病
気でない人をうらやましがったりして、自分の現在の状況から眼を背けている
ことの方が、苦しさは増すばかりでしょう。病を得て知る人生の妙というもの
もあるはずです。だから今、縁あって鳥でなく蛙でもなく牛や馬でもない自分
で考えることの出来る人間という稼業をやらせて戴いているご自身を楽しんで
下さいー

 これは、現在病を得て苦しんでおられるあなたへ、この紙上を借りての私の
手紙である。人は通常、自分が病気になったり、災害に遭うかも知れないとい
うことを忘れて生活している。しかし生まれたからには多くの人が病気になり、
災難に遭う。そういう時に想像や架空のことばかりに自分を托しては現実の自
分と比較してみじめな思いになる。病気にさえならなかったら‥、あの時に違
う人と結婚していたら‥、もっとお金持ちに生まれていたら‥、あと五センチ
身長が高かったら‥、母さえ亡くならなかったら‥と数えたらきりがない。現
実という事実はどんなに偉い人でも変えることは出来ない。私たちは毎日、こ
の時この時間を自分が自分になり切っているかどうかにより、充実した人生を
送っているのか、虚しい生き方をしているのかに分かれる。良寛さんは、あな
たがあなたを素直に認め、ありのままに生きることがあなたの幸せなんだよ、
と見舞いの言葉を述べられた。

 人間の幸せって一体何だろうかと考える。功なり名を遂げることだろうか。
病気をしないで長生きをすることだろうか。財産を築くことだろうか。では、
名もなく貧しい人生は不幸なのだろうか。人生の大半を病院で過ごす人は不幸
なのだろうか。早くに亡くなる人はみんな不幸なのだろうか。いや人生は貧富、
運不運、長短が問題ではないはずである。

「笠重呉天雪鞋香楚地花」
「笠は重し呉天(ごてん)の雪 鞋(あい)は香し楚地(そぢ)の花)

という語は、雲水修行の道程にある風情を言ったものだが、人生はそのまま旅
でもある。呉も楚も中国の国の名前だが、酷寒の中、降り積もる雪を我が頭で
受け止めねばならない時もある。また百花乱れ咲く道を歩けば草鞋までもが花
の香りに包まれる。何れにしてもその時その時の今を自分の足で大地を踏みし
めていることが大切である。今ここにいる私、今ここにある自分の生命を楽し
める人こそ幸い多き人生の達人となる。


01  君看よ
02  好事
03  独座
04  皆真なり
05  共に行く
06  好日
07  不食
08  蒼龍の窟
09  家珍
10  風涼し
11  弁じ難し
12  滋味無し
13  月在手
14  無南北
15  短法身
16  這漢
17  同事
18  桃核
19  足別離
20  癡僧
21  元不識
22  不遠
23  不諾
24  也風流
25  無所住
26  阿家牽
27  忘却
28  是非人1
29  是非人2
30  竹一竿
31 斑斑色
32 可憐
33 眞人
34 無慚色
35 不相知
36 三子寒
37 似秋月
38 思鱸客
39 明月夜
40 進一歩
41 千年翠
42 喫茶去
43 殺仏
44 如在
45 声吁吁
46 山高
47 不貪
48 養形
49 夜来雁
50 世上人
51 上樓
52 無暖気
53 嫌揀擇
54 罵李
55 怪力乱神
56 童子不知
57 到遼西
58 火自涼
59 不覚臭
60 無咎
61 為父隠
62 生万物
63 至菩提
64 北枝寒
65 無功徳
66 邯鄲之歩
67 東家杓柄
68 謂之仁
69 諸行無常
70 一期一会
71 問伊
72 乾屎ケツ
73 楚地花
74 な し
75 な し


説教はイヤだ!体験がいい!坐禅を組む。

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道樹寺 江口 潭渕(たんえん) dojuzi@ktroad.ne.jp