一筆法話72

『乾屎ケツ』(かんしけつ)



 私は猥談(わいだん)や尾篭(びろう)な話をよくする。殊に妙麗のご婦人
の前ではムキになってするきらいがある。だから、そういう話を私がしなかっ
たら相手を妙麗だと思っていない証拠である。かといって男女の間のいわゆる
「通の話」は出来ない。美しい恋愛などと言っても元を辿(たど)れば、生殖
機能のなせる技であることを知っているからだ。ましてオシッコやウンチの話
をするからと言って、特別にそういうことに興味があってのことでもない。お
上品にすました顔をして当たり障りのないことばかりを言う人に会うと内心笑
い、この人もウンチをするんだと思うだけのことである。

 いつぞやお寺に遊びに来た若者とテレビを見ていた時のことだ。或る有名な
女性歌手が大好きで、叶わぬことながら一緒に過ごしてみたいとしきりに言う。

「あのなあ、あんなにかわいい顔して歌は上手か下手か知らんが、トイレに行
けば彼女だって眉間に皺をよせてウンチをするんだぜ」

「和尚さん、そんな汚いこと言わないで下さいよ」

「だって本当じゃないか、世の中にウンチをしない人間が一人でもいるものか、
いると言うならお目にかかりたい。人間は一皮剥けば、みんな同じさ」

「だって、普通の人は誰もそんなこと考えもしないし、言いませんよ」

「だから、その誰も考えもしないことを私が考えてやっているのじゃないか、
親切にも人の言わないことを代って言っているのじゃないか」

「変な和尚さんですね」

 確かに私は変である。そのような事は普通の常識的な人は言わない。しかし
常識ほど不確かなものはない。禅宗史に燦然(さんぜん)と輝く雲門(うんも
ん)和尚に修行僧が尋ねた。

「仏とはどういうものですか。」

雲門和尚は、
「乾屎ケツ(かんしけつ)」と答えた。
この乾屎ケツ(かんしけつ)というのはウンチを掻(か)き出す棒のことであ
る。通常、仏さまは清浄であるとして人は疑わない。現にお寺の本尊さまはキ
レイに荘厳してあり、ウンチの匂いのすることなどとんでもないことである。
しかし、清浄なる仏さまはどういうものかと問われ、汚いウンチの付いた棒だ、
と雲門和尚は答えた。雲門和尚は、木で作った仏像や、鋳造した観音様のこと
を言ったのではない。そういうものは火事になれば焼けてしまうし、ハンマー
で叩けば潰(つぶ)れてしまう。そういう常識の形のことを言ったのではない。

 私たちは地位や名誉、物やお金を頼りにし、また美しいものや旨いものなど
には心を奪われ、汚いものや不恰好な存在は心の中で抹殺する。しかし、仏さ
まの世界にはそういう考えは一切ない。自分だけの思い込みや常識は通用しな
い。生きとし生けるもの、この世に存在するもの全てに生命を見出す者だけが
雲門和尚の心を知ることが出来る。


01  君看よ
02  好事
03  独座
04  皆真なり
05  共に行く
06  好日
07  不食
08  蒼龍の窟
09  家珍
10  風涼し
11  弁じ難し
12  滋味無し
13  月在手
14  無南北
15  短法身
16  這漢
17  同事
18  桃核
19  足別離
20  癡僧
21  元不識
22  不遠
23  不諾
24  也風流
25  無所住
26  阿家牽
27  忘却
28  是非人1
29  是非人2
30  竹一竿
31 斑斑色
32 可憐
33 眞人
34 無慚色
35 不相知
36 三子寒
37 似秋月
38 思鱸客
39 明月夜
40 進一歩
41 千年翠
42 喫茶去
43 殺仏
44 如在
45 声吁吁
46 山高
47 不貪
48 養形
49 夜来雁
50 世上人
51 上樓
52 無暖気
53 嫌揀擇
54 罵李
55 怪力乱神
56 童子不知
57 到遼西
58 火自涼
59 不覚臭
60 無咎
61 為父隠
62 生万物
63 至菩提
64 北枝寒
65 無功徳
66 邯鄲之歩
67 東家杓柄
68 謂之仁
69 諸行無常
70 一期一会
71 問伊
72 乾屎ケツ
73 楚地花
74 な し
75 な し


説教はイヤだ!体験がいい!坐禅を組む。

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道樹寺 江口 潭渕(たんえん) dojuzi@ktroad.ne.jp