一筆法話67

『東家杓柄』(とうかのしゃくへい)



 近所を歩いていたら学校帰りの小学生四、五人と出くわした。コンニチワ
と挨拶したらコンニチワと返ってきた。なかなか素直で結構である‥‥と思
って、ここで油断をして気を許し、こちらが隙を与えると小学生はすぐに遠
慮会釈がなくなり、もう言いたい放題で、傍若無人となる。

「和尚さんハゲやねえ。恥ずかしくないのお。いつからハゲやってるの。」

「違うわい、ちゃんと頭の毛はあるぞ。君も一回くらい頭を剃ってみるか。
気持ちいいぞ。」

「いやだよ。そんな頭で家に帰ったら、お母さんが気絶するもの。絶対にそ
んな頭おかしいよ。」

親も見ていないので、無理やりお寺に引きずり込んで頭を剃ってやろうかと
思ったが、翌日の新聞の三面記事に載るといけないので、やめた。

 『東家杓柄長 西家杓柄短』
「東家(とうか)の杓柄(しゃくへい)は長く 西家の杓柄は短し」

という言葉がある。山田さんの家の柄杓は長いけれど、清水さんの家の柄杓
は短い、というところ。長いものは長いままで十分役に立っているし、短い
ものは短いままで十分に役立っている、という意味である。生れた環境や、
遺伝子の影響により背が高く伸びる人もいれば、同じように食事をしていて
も太る人がいる。人間にはどうにもならない区別が存在することも事実であ
る。どうにもならないことをくよくよと思い悩むのは人生において損である。

 「まど・みちお」という詩人が作詞された童謡に、有名な「ぞうさん」と
いうのがある。

「ぞうさんぞうさん おはながながいのね そうよかあさんもながいのよ」

というあの歌である。先般、この童謡について面白い記事を見つけた。それ
によれば、「ぞうさん ぞうさん おはながながいのね」という質問には、
ある意味が隠されているというのだ。どういうことかというと、この世の中
で人間は勿論のこと猿やキリンやシマウマ、蝶々やトンボなどありとあらゆ
る生き物の中で、どうして君だけが長い鼻を持っているの、という意味であ
る。言葉を変えれば、「お前、ちょっと変じゃないの。どうしてそんなに長
い鼻を持っているんだい。」ということらしい。これは作者の「まど・みち
お」さんもそういう意味で作られたというのだ。これは相手に対する嫌がら
せの質問である。

 しかし、この「ぞうさん」の歌の核心は子象の答えの中にある。子象は、
嫌みな質問をした相手がびっくりするような返答をする。それが、「そうよ
かあさんもながいのよ」である。

「うん、よく聞いてくれたね、ぼくの母さんも長いんだよ。」
と、子象はもう嬉しくてたまらないというように胸を張って答えた。あっけ
らかんと自信たっぷりに答えたのである。これで相手の意地悪な質問は粉々
に砕け散ってしまったのである。純粋に象が象であることを喜んでいるので
ある。子象は充分に、与えられた象の命を生きているのである。この「ぞう
さん」の歌は童謡というより、一人一人が心に刻み繰り返し子象の心を思い、
自分は自分の人生を生きているのかと、自分に問うもののように思われる。


一筆法話

コピーしてお読み下さい。
01  君看よ
02  好事
03  独座
04  皆真なり
05  共に行く
06  好日
07  不食
08  蒼龍の窟
09  家珍
10  風涼し
11  弁じ難し
12  滋味無し
13  月在手
14  無南北
15  短法身
16  這漢
17  同事
18  桃核
19  足別離
20  癡僧
21  元不識
22  不遠
23  不諾
24  也風流
25  無所住
26  阿家牽
27  忘却
28  是非人1
29  是非人2
30  竹一竿
31 斑斑色
32 可憐
33 眞人
34 無慚色
35 不相知
36 三子寒
37 似秋月
38 思鱸客
39 明月夜
40 進一歩
41 千年翠
42 喫茶去
43 殺仏
44 如在
45 声吁吁
46 山高
47 不貪
48 養形
49 夜来雁
50 世上人
51 上樓
52 無暖気
53 嫌揀擇
54 罵李
55 怪力乱神
56 童子不知
57 到遼西
58 火自涼
59 不覚臭
60 無咎
61 為父隠
62 生万物
63 至菩提
64 北枝寒
65 無功徳
66 邯鄲之歩
67 東家杓柄長
68 謂之仁
69 諸行無常
70 な し


説教はイヤだ!体験がいい!坐禅を組む。

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道樹寺 江口 潭渕(たんえん) dojuzi@ktroad.ne.jp