一筆法話65

『無功徳』(むくどく)


 紀元五二七年、達磨さんは遥々(はるばる)インドから中国へ禅を伝え
るためにやって来た。その時の皇帝は「仏心天子(ぶっしんてんし)」と
呼ばれ、熱心な仏教信者である武帝だった。仏教を信仰していればきっと
御利益があると信じていたようで、インドから偉い坊さんが来たというの
で、早速会見し得意になって質問をした。

「私は即位以来、数多くのお寺を建て、多くの僧侶や尼僧に供養をし、自
分で仏典の講義もし、また多くの教典を写経してきました。一体どのよう
な良いことがあるのですかな。」

ところが武帝のこの問いに対して達磨はただ一言、
「無功徳(むくどく)」と答えた。無功徳とは「ご利益なんか何にもない」
ということである。この答えには武帝もびっくりして我が耳を疑った。気
を取り直した武帝は第二の質問をする。
[如何(いか)なるか是れ聖諦第一義(しょうたいだいいちぎ)]
「どういうものが最も優れた教えですか」
この質問に対してもそっけない反応で、
[廓然無聖(かくねんむしょう)]「そういう尊いものなど何処にもない
わい」
とすまして答えた。とうとう武帝は質問に困り達磨さんに聞いた、
[朕(ちん)に対する者は誰ぞ]「わしに向かって話しているお前は一体
誰じゃ」
[不識(ふしき)]「そんなもの俺が誰だかは知らんよ」
まったく木で鼻を括(くく)ったような応答しかしない達磨を武帝は理解
できなかったに違いない。

 達磨は禅の教えを伝えるには機(き)が熟(じゅく)していないとみて、
「魏(ぎ)」の国へ移り嵩山(すうざん)の洞窟で坐禅を組み、来るべき
弟子を待った。そして九年後、慧可(えか)という弟子を得て禅は中国に
根づいた。

 人間は武帝のような考え方が大半である。先祖供養を熱心にやっていれ
ばご利益があり、家内安全、無病息災、国家安泰であると思っている。そ
してあの人の説教は良かった、この人はまだまだだと言ってうろつく。こ
の点、昔の伝導も現代の布教活動も同じで、核心の部分はなかなか伝わら
ないような気がする。近所の婆さんが、
「わたしは正直者で損ばかりしとるが、仏さんとご先祖さまを毎日拝んど
るお陰で、こうやって毎日元気に暮らせるでね。」
という言葉に「そうじゃねえ」と笑って応えるしかない。

 自然の摂理は人間にも動物にも植物にも平等である。キリスト教を信じ
てもイスラムの信者でも仏教信者であっても病気をするときには病気にな
る。当たり前のことだ。結果を求めての信仰は不純な心が働くから、その
中にウソがある。ましてや信仰の深さを自慢したり、人に知られようと振
舞ったり、功徳(くどく)を願うような信仰は問題外である。そういう人
は特別な有り難い教えや、立派な人を求め続け、さまよい続けることだろ
う。達磨が武帝に言ったように仏教はつまらない、ご利益もなければ有り
難い教えもないものだろうか。一つ言えることは、達磨に慧可という弟子
が育ったことである。その答えはあなた自身が出さなければならない。

一筆法話

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01  君看よ
02  好事
03  独座
04  皆真なり
05  共に行く
06  好日
07  不食
08  蒼龍の窟
09  家珍
10  風涼し
11  弁じ難し
12  滋味無し
13  月在手
14  無南北
15  短法身
16  這漢
17  同事
18  桃核
19  足別離
20  癡僧
21  元不識
22  不遠
23  不諾
24  也風流
25  無所住
26  阿家牽
27  忘却
28  是非人1
29  是非人2
30  竹一竿
31 斑斑色
32 可憐
33 眞人
34 無慚色
35 不相知
36 三子寒
37 似秋月
38 思鱸客
39 明月夜
40 進一歩
41 千年翠
42 喫茶去
43 殺仏
44 如在
45 声吁吁
46 山高
47 不貪
48 養形
49 夜来雁
50 世上人
51 上樓
52 無暖気
53 嫌揀擇
54 罵李
55 怪力乱神
56 童子不知
57 到遼西
58 火自涼
59 不覚臭
60 無咎
61 為父隠
62 生万物
63 至菩提
64 北枝寒
65 無功徳
66 邯鄲之歩
67 な し
68 な し
69 な し
70 な し


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