一筆法話64

『北枝寒』(ほくしはさむし)


 先日、磐田市のお寺へ法話に行った折、ご住職からお聞きした話。
「この前、街を歩いていたら高校生達がワシのことをじっと見ているから、どうしたん
やと聞いたら、
『お坊さんが何宗の坊さんか当てっこをしていたのです』と言いましてね。
『ワシゃ禅宗の坊さんや』と言うてやりましたよ。
しかし、二、三十年前までは一般の人でも、歩いているお坊さんの姿を見ただけでおよ
そ何宗かぐらいは見当がついたもんだが、最近はワシらのようにお寺関係の者が見ても
見当がつかんようになってきましたな。みんな同じ顔に見えるし、同じ歩き方をしてい
るし、みんな頭で坊さんやっているような気がしますなあ。」
すまして話を聞いてはいたものの、冷や汗が出てきた。

 更に和尚さんの話は続く。
「ワシはお寺で生まれたが、小学校の六年生の時から小僧寺へ行きましてなあ。十数人
の小僧達と一緒に生活しとったんです。ところが昔のことで、小僧さん全部に着る物を
買ってはくれない。そこで一番上の兄弟子が着る物を調達してくるんですよ。ご縁のあ
る家を廻り、そこの家の子供のお古を頂いてくるんですな。中学生になった或る時、学
校から帰ってくる途中でお母さんと子供の二人連れとすれ違ったんですね。そうしたら
小学校の四、五年生くらいのその子が、
『あっ、あれ僕の服や!』と大きな声で私を指さしたんです。
ワシは身体が小さかったから、中学生になっても小学生のサイズで間に合うんですよ。
私はその言葉を聞いて身体が小さい上にまた小そうなってしまいましたが、それでも精
一杯の声を出して、
『違うわい!これは兄弟子から戴いたもんや。』と言いましたよ。
そしたらね、子供を連れていた母親がその子の頭をバシッと叩いて、
『何を言うとるのや。お寺さんに戴いてもろうて有り難く思わないかんやないの。』と
言ったんですよ。ワシはあの時の母親の顔は今でも忘れんよ。」

 人間の数だけ苦しみや悲しみがあることは当然のことながら、小僧の頃は辛かったの
苦しかったのと仰々しく言わずに、ただ淡々と語る和尚の横顔を見ながらかえってその
苦しさが偲ばれ、私は胸が熱くなった。

 人間は一生の間に、いろいろな経験を積み、それが自分の生きる力となったり、逆に
捻くれたりもする。同じように貧乏に苦しんだ家族がお金に執着する人になったり、あ
っけらかんと人生を達観する人にもなる。

「南枝向暖北枝寒 一種春風有両般」
(南枝は暖かきに向かい北枝は寒し 一種の春風に両般有り)

という詩がある。南側の枝は暖かく北側の枝は寒い、同じ春の風が吹いても寒かったり
暖かったりと異ってしまう。心のどこの部分で感じるかによって、大きな違いとなる。


一筆法話

コピーしてお読み下さい。
01  君看よ
02  好事
03  独座
04  皆真なり
05  共に行く
06  好日
07  不食
08  蒼龍の窟
09  家珍
10  風涼し
11  弁じ難し
12  滋味無し
13  月在手
14  無南北
15  短法身
16  這漢
17  同事
18  桃核
19  足別離
20  癡僧
21  元不識
22  不遠
23  不諾
24  也風流
25  無所住
26  阿家牽
27  忘却
28  是非人1
29  是非人2
30  竹一竿
31 斑斑色
32 可憐
33 眞人
34 無慚色
35 不相知
36 三子寒
37 似秋月
38 思鱸客
39 明月夜
40 進一歩
41 千年翠
42 喫茶去
43 殺仏
44 如在
45 声吁吁
46 山高
47 不貪
48 養形
49 夜来雁
50 世上人
51 上樓
52 無暖気
53 嫌揀擇
54 罵李
55 怪力乱神
56 童子不知
57 到遼西
58 火自涼
59 不覚臭
60 無咎
61 為父隠
62 生万物
63 至菩提
64 北枝寒
65 無功徳
66 邯鄲之歩
67 な し
68 な し
69 な し
70 な し


説教はイヤだ!体験がいい!坐禅を組む。

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道樹寺 江口 潭渕(たんえん) dojuzi@ktroad.ne.jp