一筆法話62

『生万物』(ばんぶつをしょうず)


 ある若い奥さんからの質問。
「ねえ、お葬式の時にお焼香するでしょ。あれって何回するのが本当なの。見ていると一回の人も
いれば、二回、三回やる人もいて何だか解らないのよね」
「あ〜、お焼香ね。それは貴女が気の済むまでやったらいいでしょう」
「えっ、何回でもいいんですか。ちゃんとした決まりがあるのではないの」
「いやいや、アンタがやりたいだけやったらいいんだよ」
「え〜、そんなこと言って和尚さんは若いからまだそういうことを勉強していないんでしょう」
「そんなこと勉強するほどの事でもないと思うけど。でもね、焼香は三回が限度だと思うよ。」

 「『道生一、一生二、二生三、三生萬物。』(道は一を生じ、二は三を生じ、三は万物を生ず)
ということを中国の老子という人が『老子道徳経』という本の中で言っているんだよね。最初たっ
た一つの道というか真理というか人間の頭で理解出来んようなものがあり、その大宇宙のようなも
のが陰と陽、つまり天と地の二つに分かれるらしい、その天と地からあらゆるものが生れてくる。
だから三という数字は三番目とか三回という意味のほかに沢山という意味もあるんだよね。三回焼
香するということは充分にやりましたということじゃないかな。」

 「あ〜、そう。じゃあ一回でも、二回でも気持ちを込めてやればいいってことか」
「そうそう、そう思うよ。お参りの人が大勢いるのにご丁寧に三回もやればあとの人がつかえて迷
惑すると思うよ。人間関係だってそうでしょう。『和尚さんはいい人ね』と言われて、そうか自分
はそう思われているのかって、納得するけど、同じことを四回も言われたら、待てよこの人は腹の
中で何考えてんだって、却って疑うよ。昔から人にお願いする時も、三顧の礼といって三回お願い
するのが充分の礼儀だと言われているし、三拝といって仏さまや祖師方の前で五体投地の礼拝をす
る時も一つの動作を三回やることになっているからね」
「そうね。私だって学生の頃に、男の子から『好きだよ』って言われた時嬉しかったけど、四、五
回も言われたら気持ち悪くなったものね」

 「それはどうも‥‥。でもね、お焼香する時にお香を額まで押し頂いてやるでしょう。あれって、
どうしてそうするのか知ってる?」
「いいえ、知りません」
 「実はね、法事やお葬式に行く時は、お香は自前で持参したのを焚くのが礼儀なんですよ。だか
ら私たち僧侶はいちいち押し頂いて焼香することはありませんが、一般の人は自分のお香を持って
いる人は殆どいませんよね、だから人様のお香を頂いて焼香するから、頂戴しますという意味で、
額のところまで押し頂くのですよ。」
「じゃあ、和尚さんも自分のお香を忘れたら、額のところまで押し頂いて焼香するんですか?」
「そういう時には、慌てず騒がず、おもむろに着物の袂(たもと)の中を引っかき回して、綿ぼこ
りでも何でもいいからつまみ出して、持ってきたような顔をして焼香するのさ。私の袂は(たもと)
は万物を生ずのさ。」
「え〜、家(うち)のお爺さんの時もやったんでしょ!」

一筆法話

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01  君看よ
02  好事
03  独座
04  皆真なり
05  共に行く
06  好日
07  不食
08  蒼龍の窟
09  家珍
10  風涼し
11  弁じ難し
12  滋味無し
13  月在手
14  無南北
15  短法身
16  這漢
17  同事
18  桃核
19  足別離
20  癡僧
21  元不識
22  不遠
23  不諾
24  也風流
25  無所住
26  阿家牽
27  忘却
28  是非人1
29  是非人2
30  竹一竿
31 斑斑色
32 可憐
33 眞人
34 無慚色
35 不相知
36 三子寒
37 似秋月
38 思鱸客
39 明月夜
40 進一歩
41 千年翠
42 喫茶去
43 殺仏
44 如在
45 声吁吁
46 山高
47 不貪
48 養形
49 夜来雁
50 世上人
51 上樓
52 無暖気
53 嫌揀擇
54 罵李
55 怪力乱神
56 童子不知
57 到遼西
58 火自涼
59 不覚臭
60 無咎
61 為父隠
62 生万物
63 至菩提
64 北枝寒
65 な し


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道樹寺 江口 潭渕(たんえん) dojuzi@ktroad.ne.jp