一筆法話59

『不覚臭』(くさきをおぼえず)


 賓頭盧尊者(びんづるそんじゃ)という仏像を本堂の前や中などに安置してあるお寺がある。
その賓頭盧尊者の像をなでると病気が治ると信じられている。お釈迦さまが在世の頃、尊者が
神通力を自由自在に世の人に誇示して見せたのでお怒りになって、
「お前は究極の悟りを得ずにこの世に止まって永く仏法を守り、多くの衆生を救うように」
との命を出された。尊者はお釈迦さまの言葉を守り、今に至って現世の衆生を救う菩薩である
と伝えられている。だからたいていは人が集まるお堂の前に安置してある所が多い。親しみを
もって「お賓頭盧さま」と呼び信仰している人も多くいる。

 なまじっか神通力が使えたばかりに、賓頭盧尊者は人々の期待に応えるため、さまざまな不
思議なことを見せたのだろう。そうであれば人々も酷なことをしたものである。小さい時から
美人だ、美人だと言われ続けてきた人は、美人でなければならないのであり、そのように振る
舞わなければ周りが許してくれない。同じように子供の頃から、よく気が利いて頭がいいと、
いつもいつも言われてきた人は、頭が良く気が利かなくてはいけないのである。ご苦労さまな
ことだ。

 先日、岐阜のさる公園で一休していたら、近くで二、三人のホームレスの人が酒盛りをやっ
ていて、
「おい、こっちへ来て一盃やれ、腹減ってんだろう。」
と声を掛けてくれた。
「いえ、お腹は空いてません。どうぞご心配なく。」
「遠慮するなよ、わかってんだよ、おめえさんの腹具合はお見通しだ。こっちへ来いって!」
私は、ついつい引きずり込まれて缶の中からサバの水煮を一切れ頂戴した。カップ酒も戴いた。
「あんたも若いんだから、親を泣かすようなことをやっちゃあイケナイよ。俺も昔は早稲田の
英文科を出たんだ。あんたも重そうだけど、英文科はもっと重たいんだぜ。」
ホームレスの人だって選ぶ権利があるのだろうから、私は選ばれた人なのだ。しかし何のこと
はない、説教したかっただけのようで、三十分位懇々と説教されて解放された。そういえば私
は小さいころから横着なことばかりしてきたので、説教ばかりされて育ってきた。だからいつ
の頃からかどうぞ説教してくれ、というような顔が身についているのかもしれない。

 『自尿不覚臭』
「自尿(じし)臭きを覚えず」という禅語がある。自分のウンチの臭いはあまり気にならない
と言う意味である。自分ではあまり気にならない臭いを六十年も七十年も漂わせて生き続け、
やがて冥土の迎えがあり、徒野(あだしの=火葬場)の空の煙となって我が身が消えても、そ
こにはなんとなく生前の臭いが漂っているような気がする。善悪の業は因果の道理によって後
に必ずその結果を生むというのが仏教の教えであるが、この臭いを称して業というのだろうか。
恐ろしいことである。やはり死ぬ時は、いい香りを残して逝きたいものである。今一度、我が
身を反省しよう。

一筆法話

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01  君看よ
02  好事
03  独座
04  皆真なり
05  共に行く
06  好日
07  不食
08  蒼龍の窟
09  家珍
10  風涼し
11  弁じ難し
12  滋味無し
13  月在手
14  無南北
15  短法身
16  這漢
17  同事
18  桃核
19  足別離
20  癡僧
21  元不識
22  不遠
23  不諾
24  也風流
25  無所住
26  阿家牽
27  忘却
28  是非人1
29  是非人2
30  竹一竿
31 斑斑色
32 可憐
33 眞人
34 無慚色
35 不相知
36 三子寒
37 似秋月
38 思鱸客
39 明月夜
40 進一歩
41 千年翠
42 喫茶去
43 殺仏
44 如在
45 声吁吁
46 山高
47 不貪
48 養形
49 夜来雁
50 世上人
51 上樓
52 無暖気
53 嫌揀擇
54 罵李
55 怪力乱神
56 童子不知
57 到遼西
58 火自涼
59 不覚臭
60 無咎
61 為父隠
62 な し
63 な し
64 な し
65 な し


説教はイヤだ!体験がいい!坐禅を組む。

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道樹寺 江口 潭渕(たんえん) dojuzi@ktroad.ne.jp