一筆法話58

『火自涼』(ひおのずからすずし)


 暑い夏、中国の詩人の杜荀鶴(とじゅんかく)は悟空上人のお寺を訪ねた折、次のよ
うな詩を贈った。

『三伏閉門披一衲、兼無松竹蔭房廊、安禅不必須山水、滅却心中火亦涼』

「三伏(さんぷく)門を閉ざして一衲(いちのう)を被(き)る、兼ねて松竹の房廊
(ぼうろう)を蔭(かげ)するなし、安禅は必ずしも山水を須(もちい)ず、心中を
滅却すれば火も亦涼し」

夏の一番暑いときに門を閉ざし、衣を着けて坐禅を組んでおられる。お寺には日陰とな
る松もなければ、風を起こす竹もない。坐禅というのは絵に描いたような山水の奇麗な
お寺でなくとも、自分の心が澄んでいれば、例え火の中だろうと涼しいものである。

 それから下ること六百年、甲斐の恵林寺の快川(かいせん)和尚は織田信長の焼き
打ちに遇い、いよいよ最後という時、山門の上に登り、

『安禪不必須山水 滅却心頭火自涼』

「安禅は必ずしも山水を須(もちい)ず、 心頭(しんとう)を滅却(めっきゃく)
すれば火自(おのずか)ら涼し」

という一偈(いちげ)を残して火炎三昧となり弟子達や武田の家臣達と共に亡くなら
れた。

 それから下ること五百年。美濃の道樹寺では潭渕和尚が、暑い時期にくり返す、田舎
の婆さんとの会話。
「暑い、暑い、今日も暑いね。」
「和尚(おっ)さまでも暑いのかね。」
「そんなもん暑いに決まっとる、三十五度超えてるやないか。」
「ふん!和尚さまは修行が足らんから、暑いと言うのや。」
「暑い時に暑いと言わぬのは、釜ゆでになった石川五右衛門か、あんたと同じボケ老人
やないか。」
「ひどいこと言いなさる。和尚さまだったら、暑い、寒いと言わんのが 修行の成果と違
うのかね。」
「そんなことのために修行するんやったらわしの人生の貴重な時間がもったいないわい。
たかが暑い寒いと言わぬ事くらいで、わざわざ修行することもないね。」
「では、何で修行するんやね。」
「それは‥、つまり人間になるためやないか。」
「和尚さまも、いよいよわっちと同じボケ症状になりよったな。人間 やったら、生まれ
たときからずっと人間稼業やっとるやないかね。」
「ふん、自分のことボケと認めよったか。いいかい、柳ケ瀬通りを歩 いている多くの生
き物は人間の皮を着ているキツネやタヌキばかりじゃ。きれいな着物で自分を着飾って、
指輪やらイヤリングやら、最近は鼻にまで付けとるやないか。みんな本当の自分をごまか
すためにやっとるんや。 自分らの心がキツネやタヌキということを、隠そう隠そうとしと
るやないか。」
「ふーんそういう意味か。でもな、みんなが人間らしく正直に話すようになったら和尚さ
まはこのお寺におれんようになるがな。」
「どうしてや?」
「だって、和尚さまは何もしないでもタヌキに見えるぞな。」
「‥‥‥‥」
 嗚呼(ああ)、眼のくさっとるボケとは話が出来ん。

一筆法話

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01  君看よ
02  好事
03  独座
04  皆真なり
05  共に行く
06  好日
07  不食
08  蒼龍の窟
09  家珍
10  風涼し
11  弁じ難し
12  滋味無し
13  月在手
14  無南北
15  短法身
16  這漢
17  同事
18  桃核
19  足別離
20  癡僧
21  元不識
22  不遠
23  不諾
24  也風流
25  無所住
26  阿家牽
27  忘却
28  是非人1
29  是非人2
30  竹一竿
31 斑斑色
32 可憐
33 眞人
34 無慚色
35 不相知
36 三子寒
37 似秋月
38 思鱸客
39 明月夜
40 進一歩
41 千年翠
42 喫茶去
43 殺仏
44 如在
45 声吁吁
46 山高
47 不貪
48 養形
49 夜来雁
50 世上人
51 上樓
52 無暖気
53 嫌揀擇
54 罵李
55 怪力乱神
56 童子不知
57 到遼西
58 火自涼
59 不覚臭
60 無咎
61 為父隠
62 な し
63 な し
64 な し
65 な し


説教はイヤだ!体験がいい!坐禅を組む。

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道樹寺 江口 潭渕(たんえん) dojuzi@ktroad.ne.jp