一筆法話56

『童子不知』(どうじはしらず)


 弘法大師(空海)は『祕藏寶鑰』(ひぞうほうやく)という書物の冒頭で、

「生まれ生まれ生まれ生まれて生の始めに暗く、死に死に死に死んで死の終わりに冥し。」

と述べられている。多くの人は、人間として生まれてきて、何となく生きて、何となく
歳を取り、たまたま病気になったりしながら、さほどのことは考えずに死ぬ順番が来た
といっては死んでいく。全く生も死も暗い。しかし本当のところは生と死の問題が怖い
から触れたくないのである。なるべくそういうことは忘れて生きていた方が楽に生きら
れるからである。

 人には忘れることの出来ない苦しみがある。人がこの世に生まれてくる苦しみ、やが
て年をとり容貌が衰え体が枯れていく苦しみ、糖尿病や癌、高血圧、エイズなどのさま
ざまな病気をする苦しみ、そして未だに誰も見て帰ったことのない死の恐怖という苦し
み。これらの苦しみを、お釈迦さまは生老病死(しょうろうびょうし)の苦しみといっ
て人間が避けることの出来ない「苦しみ」だとされた。人間がこの世に生を受けるとい
うことは、この四つの
「苦しみ」である生老病死(しょうろうびょうし)は絶対に
避けられないということである。お釈迦さまが言っておられるのだから仕方がない。

 偶々、お参りに来たおばあさんとの会話。
「和尚さま、私はね毎日、朝と晩のお経は欠かしたことがないんや。おかげで、家族の
者はみんな元気だし、災難もまったくないよ。」
「そうかね。そのうち災いが来るよ。」
「縁起でもないことを言いなさるよ。どうして信仰しているのに災いが来るのかね。」
「いいかね、人間は生れてきたからには必ず病気になるし、歳をとらねばならないし、
必ず死んでいくということは誰も逃げられない自然の決まりだよ。そして、長い人生の
中には子供に先立たれる逆縁もあるだろうし、思いもかけない事故に遭うことだってあ
るよ。よーく世の中を見渡してごらんよ。あんなに優しい立派な人がどうして四十代そ
こそこで逝かねばならないのかという理不尽なこともあるし、ほれほれ、お婆ちゃんの
近くにもいるじゃろ、あのごうつく爺さんは吸血鬼かゲジゲジみたいに言われているけ
れど、ちゃんと元気にしているやないか。大事なのはね、いつ病気になるかもわからん、
いつ死ぬかもわからん、と覚悟して生きることが本当の信仰だよ。」

 多くの人たちは宗教を信じることに現世利益を求めている。しかし、仏教は現世利益
を中心にした教えではない。生老病死から逃れることが出来ると思って信仰している人
が多くいる。お釈迦さまは、決してそれらから逃げることは出来ないと言われたのにで
ある。

 『童子不知霜雪苦 只取瓦礫打寒氷』

「童子は知らず霜雪の苦を、ただ瓦礫を取って寒氷を打す」という言葉がある。

子供たちは酷寒の寒さを苦にするよりも、遊びに夢中になり、小石を拾っては投げて、
氷を割っている。無心に生きていくことが苦を離れることの一番の近道のような気が
するが、何も考えたことのない無心はただのタワケである。

一筆法話

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01  君看よ
02  好事
03  独座
04  皆真なり
05  共に行く
06  好日
07  不食
08  蒼龍の窟
09  家珍
10  風涼し
11  弁じ難し
12  滋味無し
13  月在手
14  無南北
15  短法身
16  這漢
17  同事
18  桃核
19  足別離
20  癡僧
21  元不識
22  不遠
23  不諾
24  也風流
25  無所住
26  阿家牽
27  忘却
28  是非人1
29  是非人2
30  竹一竿
31 斑斑色
32 可憐
33 眞人
34 無慚色
35 不相知
36 三子寒
37 似秋月
38 思鱸客
39 明月夜
40 進一歩
41 千年翠
42 喫茶去
43 殺仏
44 如在
45 声吁吁
46 山高
47 不貪
48 養形
49 夜来雁
50 世上人
51 上樓
52 無暖気
53 嫌揀擇
54 罵李
55 怪力乱神
56 童子不知
57 到遼西
58 火自涼
59 不覚臭
60 無咎
61 為父隠
62 な し
63 な し
64 な し
65 な し


説教はイヤだ!体験がいい!坐禅を組む。

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道樹寺 江口 潭渕(たんえん) dojuzi@ktroad.ne.jp