一筆法話54

『罵李』(すももをののしる)


 明治の禅僧、原坦山和尚は若いころ友人と修行を志し、脚絆に甲掛、網代笠のいでたち
で諸国を巡り歩いた。ある時、橋のない川にさしかかり二人は尻端折りをしてざぶざぶと
川を渡り始めた。ふっと後ろを振り向くと若い娘がもじもじとしている。あいにく夜来の
雨で川は増水し、渡るには男ならともかく女性には無理なようであった。坦山和尚はくる
りと踵を返し娘の方へざぶざぶと近づき、

「お前さん、私の背中に乗りなさい」
と言って、娘を背中におんぶして川を渡してやった。

 お釈迦さまは修行僧の心が乱れることを避けるために、女性に近づくことを戒められた。
それがネコでもメスネコには触れないようにと言われたらしい。そのようなことを知らな
いはずはないとばかりに、友人は坦山和尚を睨みつけた。しかし坦山和尚は知らん顔をし
て黙々と歩き続けた。四、五キロも歩いた頃とうとう友人は坦山和尚をなじった。
「おい、貴公は一体どういうつもりで修行をやっているんだ。」
「どういうつもりだって?そりゃあ真面目に修行して仏道を極めるために決まっているさ」
「ウソをつけ!先ほど若い娘をおんぶしておいて真面目に修行という言いぐさは何事だ!」
「あ〜あの娘のことか。わしはあの時娘を降ろしてきたが、お前はあれ以来ず〜っとあの
娘をおんぶしたままだったのか」
友人は返す言葉がなく、うつむいてしまったという。

 心の中はいつも爽かでいたい。しかし、自分の心を覗かずに、他人の心ばかりを覗きた
がる者がいる。先日、新幹線の中で後ろの席に座った中年の男女の会話。
「田中さんは苦労していないから、人の心がわからないのね。私達があれだけ親切に仲間
に入れてあげてるのに、感謝の気持が態度に表れていないのよね」
「うん、そうだな。その点、山田さんは違うね。いつも何かと心配りが出来ているね。ほ
れ、この間持って来てくれた北海道の蟹、あれは美味かったな。」
「私達の有難さが解っている人はみんないい顔してるのよね。人間って、心が顔に表れる
のよね」
私は思わず後ろを振り返って二人の顔をまじまじと見たが、ホントウにココロが顔に現れ
ていた二人だった。二人はいつも心の中に「贈り物」を持ち歩いている、と見た。

 「指桃罵李」
「桃(もも)を指(ゆび)さして李(すもも)を罵(ののし)る」

というが、桃と李は似てはいるが全く違う。桃や李を問題にしてはならない。問題はそれ
らを罵る側にある。娘をおんぶした坦山和尚の心は一点の曇りもなく、からりと晴れてい
た。だから友人が非難しても見当違いである。人は他人の行為や物で判断する。しかし物
や他人の行為で自分の心がさもしくなっては見当違いなことを考える。そしてそれを心の
荷物としてご苦労さまにも持ち歩くことになる。

一筆法話

コピーしてお読み下さい。
01  君看よ
02  好事
03  独座
04  皆真なり
05  共に行く
06  好日
07  不食
08  蒼龍の窟
09  家珍
10  風涼し
11  弁じ難し
12  滋味無し
13  月在手
14  無南北
15  短法身
16  這漢
17  同事
18  桃核
19  足別離
20  癡僧
21  元不識
22  不遠
23  不諾
24  也風流
25  無所住
26  阿家牽
27  忘却
28  是非人1
29  是非人2
30  竹一竿
31 斑斑色
32 可憐
33 眞人
34 無慚色
35 不相知
36 三子寒
37 似秋月
38 思鱸客
39 明月夜
40 進一歩
41 千年翠
42 喫茶去
43 殺仏
44 如在
45 声吁吁
46 山高
47 不貪
48 養形
49 夜来雁
50 世上人
51 上樓
52 無暖気
53 嫌揀擇
54 罵李
55 怪力乱神
56 童子不知
57 到遼西
58 火自涼
59 不覚臭
60 無咎
61 為父隠
62 な し
63 な し
64 な し
65 な し


説教はイヤだ!体験がいい!坐禅を組む。

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道樹寺 江口 潭渕(たんえん) dojuzi@ktroad.ne.jp