一筆法話52

『無暖気』(だんきなし)


 禅問答の一つに「婆子焼庵(ばすしょうあん)」という問題がある。昔、或る修行僧を
婆さんが面倒見ていた。婆さんは修行僧のために庵を建て、十六、七の若い娘に世話をさ
せ毎日食事を運び、一所懸命に面倒を見た。そうすること二十年。ある日、婆さんは給仕
の娘に言った、

「今日、お前さんが食事を出しに行ったらお坊さんに抱きついてみなさい。そして、『こ
のような時は如何ですか』と聞きなさい。」

何も解らない給仕の娘は食事を庵まで運び、言われた通りに修行僧に抱きつき、

『このような時は如何ですか。』

と聞いた。修行僧はぴくりとも動かずに、
「古木倚寒巌 三冬無暖気」

「古木(こぼく)寒巌(かんがん)に倚(よ)り、三冬(さんとう)暖気(だんき)なし」

と言った。枯れた木が岩に寄り添うようなもので、真冬(三冬)の寒さのようで全く暖か
くはないわい。という意味である。娘は婆さんの処へ戻り、修行僧の言葉を伝えた。
 それを聞いた婆さんは、

「私は二十年の間、こんな俗物に供養していたのか。」

と言って、修行僧を追い出し、とうとう庵を焼き払ってしまった。娘に抱きつかれて、ニ
ヤリと鼻の下を長くしてその気になってしまっては修行僧としての根幹がなくなってしま
い、それこそ破戒僧である。そこで修行僧は修行僧らしい優等生の答えを示した。それが
婆さんの気に入らなかった。活きた答えではなかったのである。

 最近では何処の駐車場にある自動発券機でも「カードをお取り下さい」と言い、帰りに
は「有り難うございました」と礼を述べる。また商店などにも「いらっしゃいませ」など
と機械に言葉を云わせる所がある。機械が一方的に言うのだからこちらも「寒いのに御苦
労さんだね」などとは言わない。人間の中にも時々そういう機械に勝るとも劣らない方を
見掛ける。口では「お気を付けてお帰り下さい」と言いながら、目玉はあっさっての方角
を向いているということもある。

 私たちは日常、真実の会話をしているのだろうか。ややもすれば、優等生の会話をした
り、心が伴わない言葉を使ったりする。先の修行僧は娘の問題でもなければ、婆さんの問
題でもない。修行僧自身の心の問題である。戒律を犯さないという信念は自動発券機のよ
うなロボットと同じように死んだ言葉を使いがちである。私たちの毎日の生活にも同じこ
とが言える。どんな花を見ても「綺麗(きれい)」と言うのと同じである。


一筆法話

コピーしてお読み下さい。
01  君看よ
02  好事
03  独座
04  皆真なり
05  共に行く
06  好日
07  不食
08  蒼龍の窟
09  家珍
10  風涼し
11  弁じ難し
12  滋味無し
13  月在手
14  無南北
15  短法身
16  這漢
17  同事
18  桃核
19  足別離
20  癡僧
21  元不識
22  不遠
23  不諾
24  也風流
25  無所住
26  阿家牽
27  忘却
28  是非人1
29  是非人2
30  竹一竿
31 斑斑色
32 可憐
33 眞人
34 無慚色
35 不相知
36 三子寒
37 似秋月
38 思鱸客
39 明月夜
40 進一歩
41 千年翠
42 喫茶去
43 殺仏
44 如在
45 声吁吁
46 山高
47 不貪
48 養形
49 夜来雁
50 世上人
51 上樓
52 無暖気
53 嫌揀擇
54 罵李
55 怪力乱神
56 童子不知
57 到遼西
58 火自涼
59 不覚臭
60 無咎
61 為父隠
62 な し
63 な し
64 な し
65 な し


説教はイヤだ!体験がいい!坐禅を組む。

ホームページへ戻る

案内所へ戻る

道樹寺 江口 潭渕(たんえん) dojuzi@ktroad.ne.jp