一筆法話48

『養形』(かたちをやしなう)

 米子の和尚は鳥取県日野郡江府町にある東祥寺の住職であった。米子に近いから米子の和尚
と呼んでいた。私は米子の和尚から、「仏弟子の生き方」というのを学んだ。米子の和尚と出
会い、眼からウロコが落ちたというのか、お坊さんとして生きていく目標が出来た。私の心に
は今でも米子の和尚が生き続けている。

 私は定期的に東祥寺まで通い、一週間くらい泊まっては帰った。お世話になっているので境
内の草取りをと思い、やっていると、
「お前、よくそんな暇が有るなあ。明日死ぬと思ったら何をやる!」
と言って叱られた。また、和尚のお母さんが亡くなりみんなで火葬場へ骨揚げに出かけていっ
た。誰かが、
「おばあさんもこんな姿になって可哀相になあ」と言ったら、
「ぼけ、これは婆さんが使っとった道具じゃ。道具は婆さんじゃない。」
と一言。

 全身を癌に冒されていた和尚は、入院もせずに気力で私たちの面倒を見てくれた。激痛が体
を襲そうので時々、気絶した。癌の特効薬というのは今でもないが、霊芝(れいし)というキ
ノコを刻んで煎じ、服用していたのが体に合ったのか癌は止まったままであった。それでも、
「実は私も癌なんです」という人が尋ねてくると、
「そうか、そうか。じゃあこの煎じ薬を持って行きなさい」
と、自分が持っている貴重な霊芝を全て分け与え、平然としていた。自分のことは何も考えて
いない和尚だった。
「養形必先之以物 物有余而形不養者有之矣」
「形を養うものは必ず物を先にす、物余り有りて而も形養われざる者之有り」
と二千数百年前に荘子(荘周)は言っている。肉に野菜に魚。あの薬この薬、栄養剤だと体を
養うに物質のことばかりに気をとられているが、有り余るほどに物質に恵まれていてもだめな
ときはだめである。病気と言うくらいだから「気」も大切な要因である。和尚の癌は気力で徐
々に回復し、大阪大学でも「十万人に一人の奇跡です」と驚いていた。

 しかし、生来の心臓の持病が悪化してきた。東京の有名な心臓外科で診てもらったら、二千
万円で手術をすれば、あと二十年は保証できます、と言われた。和尚は、

「そんな大金で命を永らえるのはもったいない、わしはいくら使ってもタダの心でケッコウ」

と言って手術を受けなかった。その後もねじり鉢巻きで相手をしてくれて、
「お寺へ来る者は男も女も子供も幽霊もみんな遊んでやるんじゃ」
と、教えてくれたが、昭和五十五年九月十七日あっけなく心不全で亡くなった。四十五歳であ
った。和尚の口癖は、
「人の葬式ばかりやって自分が死んでどこへ行くのかも解らんような坊さんは地獄行きじゃ。」
だった。

一筆法話

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01  君看よ
02  好事
03  独座
04  皆真なり
05  共に行く
06  好日
07  不食
08  蒼龍の窟
09  家珍
10  風涼し
11  弁じ難し
12  滋味無し
13  月在手
14  無南北
15  短法身
16  這漢
17  同事
18  桃核
19  足別離
20  癡僧
21  元不識
22  不遠
23  不諾
24  也風流
25  無所住
26  阿家牽
27  忘却
28  是非人1
29  是非人2
30  竹一竿
31 斑斑色
32 可憐
33 眞人
34 無慚色
35 不相知
36 三子寒
37 似秋月
38 思鱸客
39 明月夜
40 進一歩
41 千年翠
42 喫茶去
43 殺仏
44 如在
45 声吁吁
46 山高
47 不貪
48 養形
49 夜来雁
50 世上人
51 上樓
52 無暖気
53 嫌揀擇
54 罵李
55 怪力乱神
56 童子不知
57 到遼西
58 火自涼
59 不覚臭
60 無咎
61 為父隠
62 な し
63 な し
64 な し
65 な し


説教はイヤだ!体験がいい!坐禅を組む。

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道樹寺 江口 潭渕(たんえん) dojuzi@ktroad.ne.jp