一筆法話46

『山高』(やまたかし)

  富士山は例年、七月の末から八月の四、五日までが最も安定した天気で登山に適している。
そこで七月二十九、三十の両日、富士登山に挑戦してきた。近所の子供たちを連れて朝、四時
に出発。目的の河口湖まで約四時間‥‥のつもりだったが、途中子供らが、のどが渇いた、お
しっこしたいだのと注文がうるさくて結局五時間かかってしまった。

 五合目で金剛杖を全員に買い与え、「いざ登らん!」と、勇んで出発したのは良かったのだ
が、寄る年波には勝てず、六合目くらいから酸素不足で頭はクラクラ、休むたびにタバコを一
服するものだから胸はゼエゼエ。山登りを経験した方はご存じと思うが、お互いになんとなく
仲間のような気がして気軽に話し掛ける雰囲気がある。一服していたら追い抜いていった茨城
県の農協の人に、
「タバコばっかり吸ってると登れないよ!」
と言われた。次に登ってきた女性にまた言われたらかなわんと思って、
「タバコ吸ってたら苦しくなって登れないよね」
と先取りしたら、
「いいわよ、私も吸うから一緒に一服しましょうか」

 人間というのはだんだん疲れてくるとちょっとしたことが気になる。金剛杖には鈴が二つも
結び付けてあって、ひと足登るたびにチリリ〜ン、チリリ〜ンとうるさいものだから、思わず
その鈴を引きちぎって作務衣のポケットにつっこんだ。それでも誰よりも早く登れて八合目ま
では一番乗りだった。子供たちは遊び気分でなかなか登って来ない。八合目で約一時間ほど待
った。やっと子供たちが登って来た時には体が冷えきっていた。それに時間が足りなくなって
きて、どこの地点にいても三時になれば引き返すことを告げた。そうしたら体力のある三人の
子供が俄然張りきって登りだした。
「おいおい、待て!待て!」
と言ってもスタコラと登っていく。とてもついて行けない。あわてて追いかけるも、頭がクラ
クラして心臓が飛びだしそうである。
「こんなに苦しいのはお前らがペースを乱すからじゃ、十年前に登ったときは、頂上まで駆け
登ったものじゃ、あほんだらクソガキどもめ!」
と、遥か向こうを行く純真無垢な子供たちに当たり散らしていた。
 私は登頂を諦め、九合五勺の瓦礫の中で待機することにした。その後、頂上から降りてきた
子供ら曰く、
「和尚さん、人生いい時もあれば、悪い時もあるさ、今度はお寺の仏さまによ〜くお願いして
登ろうね。」
ばかやろ〜。わしゃ、子供なんか大嫌いじゃ!

「山高海深人不測 古往今来転青碧」
「山高く海深うして人測(はか)らず、古往今来転青碧(こおう、こんらい、うたたせいへき)」
山が高いのも海が深いのも、人はぜーんぜん真意が解らないが、昔も今も青々とした木々や碧海
の青さはそのまま永遠の色をしてる。人間の騒ぎをよそに富士山は泰然としていた。

一筆法話

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01  君看よ
02  好事
03  独座
04  皆真なり
05  共に行く
06  好日
07  不食
08  蒼龍の窟
09  家珍
10  風涼し
11  弁じ難し
12  滋味無し
13  月在手
14  無南北
15  短法身
16  這漢
17  同事
18  桃核
19  足別離
20  癡僧
21  元不識
22  不遠
23  不諾
24  也風流
25  無所住
26  阿家牽
27  忘却
28  是非人1
29  是非人2
30  竹一竿
31 斑斑色
32 可憐
33 眞人
34 無慚色
35 不相知
36 三子寒
37 似秋月
38 思鱸客
39 明月夜
40 進一歩
41 千年翠
42 喫茶去
43 殺仏
44 如在
45 声吁吁
46 山高
47 不貪
48 養形
49 夜来雁
50 世上人
51 上樓
52 無暖気
53 嫌揀擇
54 罵李
55 怪力乱神
56 童子不知
57 到遼西
58 火自涼
59 不覚臭
60 無咎
61 為父隠
62 な し
63 な し
64 な し
65 な し


説教はイヤだ!体験がいい!坐禅を組む。

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道樹寺 江口 潭渕(たんえん) dojuzi@ktroad.ne.jp