一筆法話45

『声吁吁』(こえくくたり)

 「和尚さん、この年で笑われるかも知れんが、死んだ爺さんがちっとも出て来
てくれんので、淋しくてならないがね」
「そうかな、それはいいことだね」
「どこがいいもんかね。毎日淋しくて淋しくてせめて夢にでも出てきてくれない
かと願っているのじゃが、ちっとも出てきてくれん」
「夢にも出て来んということは、よほどあの世がいいところに違いないからじゃ
ないのかなあ」
「それでも一回位は出てきてもよさそうじゃないかね。ボケたと言われるといか
んので、皆には内証にしてもらいたいんじゃが、一番出るという時間にお墓に何
度も行ってみたが、だめじゃった。呼んでも返事が返って来んじゃった」

 お婆さんの住んでいる地区は土葬の習慣が残っている。お婆さんの話によると、
「お爺さんが死んで以来、夢にも出てきてくれないので、泣く子も黙るといわれ
る丑三つ時(午前二時頃)に、こっそり山の麓のお爺さんが眠っている墓場まで、
何度も逢いに行ったのだ」
が、逢えなかった。そして私に、
「和尚さん、人間死んだらな〜んにも無くなるんだねえ。一生懸命にお経を唱え
ても爺さんに届いとるのやらどうやらも解らん。もうどうしてよいやらわからん。
布団に入っても涙が出てきて困るんじゃ」
と言った。こんなにいじらしいお婆さんの姿に私は何と答えて良いかわからない
ほどであった。人は死んで土に帰ったら、もう二度とその人の温かい姿を見るこ
とが出来ない。呼んでも答えてはくれないのだ。

 王令という人の詩に、
「朝哭声吁吁 暮哭声転無 声無血随尽 安得目不枯」
「朝(あした)に哭(こく)せば声吁吁(こえくく)たり、暮(くれ)に哭
せば声転(こえうた)た無し、声無(こえな)ければ血は随いて尽く、安(いず)
くんぞ目の枯(か)れざるを得(え)んや」
という一節がある。「朝、亡くなった人を想い、声をあげておいおいと泣く。日
暮れまでも泣けば、声も枯れ果ててしまった。声は枯れ、血の涙も出なくなって、
目も干からびてしまう」というところであろうか。

 泣いて泣いて泣き尽くしてしまうということは大切な行為である。一度も泣い
たことのないような人は泣いた人の気持が解らない。
「あの人は泣けるだけ幸せよね」
ということを聞くが、人前でわざとらしく泣くのとは違う。血の涙が出るほどに
泣いて泣いて泣き尽くした人は声も枯れ目も乾き切った後、何かをつかむことが
出きるような気がする。自分自身でどうすることも出来ないことを知った人間は
一回り大きくなれる。以前にも言ったような気がするが、又言わせて戴く。布団
を被って泣いたことのないような人とは胸襟を開いて語りあいたくない。



一筆法話

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01  君看よ
02  好事
03  独座
04  皆真なり
05  共に行く
06  好日
07  不食
08  蒼龍の窟
09  家珍
10  風涼し
11  弁じ難し
12  滋味無し
13  月在手
14  無南北
15  短法身
16  這漢
17  同事
18  桃核
19  足別離
20  癡僧
21  元不識
22  不遠
23  不諾
24  也風流
25  無所住
26  阿家牽
27  忘却
28  是非人1
29  是非人2
30  竹一竿
31 斑斑色
32 可憐
33 眞人
34 無慚色
35 不相知
36 三子寒
37 似秋月
38 思鱸客
39 明月夜
40 進一歩
41 千年翠
42 喫茶去
43 殺仏
44 如在
45 声吁吁
46 山高
47 不貪
48 養形
49 夜来雁
50 世上人
51 上樓
52 無暖気
53 嫌揀擇
54 罵李
55 怪力乱神
56 童子不知
57 到遼西
58 火自涼
59 不覚臭
60 無咎
61 為父隠
62 な し
63 な し
64 な し
65 な し


説教はイヤだ!体験がいい!坐禅を組む。

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道樹寺 江口 潭渕(たんえん) dojuzi@ktroad.ne.jp