一筆法話41

『千年翠』(せんねんのみどり)

 岐阜の若手の和尚で組織している青年僧の会というのがある。定年は四十五才で、私はあと一
年でリストラされる。若い新しい感覚で掲示伝道のポスター発行や福祉托鉢などいろいろと活動
を行っているが、その中の一つに「喫茶店法話」というのをやっている。現在は柳ヶ瀬の『白馬』
という喫茶店の二階フロアーをお借りして会員が当番を決め、実践法話の練習と一般の方がどう
いうことを考えているかを聞きたくて、法話とフリートーキングというのがある。ちょうど私が
当番の時のことである。

「私たちは、人間をやっていることに馴れすぎてしまって、見たり聞いたりする単純な日常生活
の中の感動というものを忘れているのではないか。」

ということを話した。その後のフリートーキングで、五十代のAさんという男性が面白い話をさ
れた。

 Aさんは十年程前から鼻を悪くしていたが、会社人間の哀しさで病院に行くことがままならな
いし、又それほど急を要する病気でもないので、そのままにしていた。そうしたら徐々に嗅覚が
衰えてきて殆ど香りのない生活となった。それがある日、どうも頭が重いということで病院にか
かったら、悪化しているので直に鼻の手術をしなさいと言われ、緊急入院することになった。
術後一週間ほど寝ていて、一人で歩けるようになりトイレに行った時、自分の排せつ物の匂いが
ぷーんと鼻先をかすめた。

『あー懐かしい。久しぶりのこの匂い。いいもんだな。』

と、思ったそうである。ここまでだったら普通の人がよくやる病気談義である。ところがAさん
はトイレの中で心の変化を起したそうである。

 その日以来、通常人が嫌がる生ゴミの饐えたような匂いも平気になったし、それよりも道路で
死んでいる犬や猫の死骸も躊躇なく片付けられるようになったという。またAさんの家では花壇
を作っているが、小さな虫たちが交尾などしていたら、思わず、「ガンバレよー!」と声をかけ
るそうである。そこへAさんの気持を知らない奥さんはキンチョールをシューッとかける、と言
って苦笑いしていた。Aさんは、

『この気持は、説明しても解らないんですよね。自分で経験するしかないんですよね。』

と言っていた。

 『松樹千年翠 不入時人意』
(ショウジュ千年ノミドリ 時ノ人ノココロニ入ラズ)

松の木は千年の昔から変ることなく青々とした翠を保っているが、そうした大自然の真実も意が
向かなければ何も見えてこない。Aさんは、目には見えない命の世界を意で見たのである。口の
先では全てのものに命があると解ったようなことは誰でも言える。しかし、自然にそういう生活
をしていくのは偽善ではできない。

一筆法話

コピーしてお読み下さい。
01  君看よ
02  好事
03  独座
04  皆真なり
05  共に行く
06  好日
07  不食
08  蒼龍の窟
09  家珍
10  風涼し
11  弁じ難し
12  滋味無し
13  月在手
14  無南北
15  短法身
16  這漢
17  同事
18  桃核
19  足別離
20  癡僧
21  元不識
22  不遠
23  不諾
24  也風流
25  無所住
26  阿家牽
27  忘却
28  是非人1
29  是非人2
30  竹一竿
31 斑斑色
32 可憐
33 眞人
34 無慚色
35 不相知
36 三子寒
37 似秋月
38 思鱸客
39 明月夜
40 進一歩
41 千年翠
42 喫茶去
43 殺仏
44 如在
45 声吁吁
46 山高
47 不貪
48 養形
49 夜来雁
50 世上人
51 上樓
52 無暖気
53 嫌揀擇
54 罵李
55 怪力乱神
56 童子不知
57 到遼西
58 火自涼
59 不覚臭
60 無咎
61 為父隠
62 な し
63 な し
64 な し
65 な し


説教はイヤだ!体験がいい!坐禅を組む。

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道樹寺 江口 潭渕(たんえん) dojuzi@ktroad.ne.jp