『三子寒(さんしさむし)』


烏骨鶏(うこっけい)のつがいに雛(ひな)が生れた。七
個の卵を温めていたが、孵(かえ)ったのは五羽であった。
母鶏は自分の羽毛の中に五羽の小さな雛を隠し、外敵から
我が子を守っている。雛が可愛いといって、うっかり手を
出そうものなら物凄い勢いで突かれる。すくすくと育って
きたので、久しぶりに外の空気を吸わせてやろうと、つが
いの親だけを苦労して小屋の外に出した。親鶏は最初、心
配そうに雛の方を見ていたが、天気は良いし、そのうちに
砂浴びを始めた。ちょうど昼時だったのでそのままにして
昼食をとり、一服していた。
一時間ほどしてそろそろ小屋に戻そうと外に出たら、母鶏
がいない。辺りを見回していたら雑草の中に白いものが見
えるので「しまった!」と思い急いで走り寄ったが、すで
に死んでいる、抱(かか)えあげたらまだ温かった。林の
中で野犬が二匹こちらの様子を伺っているが、野犬を怒る
気にはならなかった。残された雛たちはもう母親の温かい
懐(ふところ)に潜(もぐ)り込むことは出来ない。これ
からどうやって生きていくのだろうかと心配になった。と
ころが、父鶏はさすがに懐に雛を入れることはしないが、
餌を小さく砕いたり、ちぎったりして雛に与えている。そ
の様子を見て少し安堵した。
子を想う母の愛は無条件である。我が子が一番可愛い、目
蓮尊者の母ではないが、自分の愛し子のために鬼(おに)
にも蛇(じゃ)にも成り、他人を苦しめることだってある。
「孔子家語(こうしけご)」の中に、
「母在一子寒 母去三子寒」
という言葉がある。昔、中国に閔損(びんそん)という子
供がいた。後に孔子の弟子になる人であるが、閔損の継母
(ままはは)が彼を邪険にして、寒い冬の日でも下の弟二
人には綿入れを着せ、彼には単衣(ひとえ)の着物しか与
えなかった。閔損の継母は腹を痛めた二人の子供が可愛い、
だんだんと閔損を疎略(そりゃく)に扱うようになる。父
はそのことに気付き、継母を家から追い出そうとした。そ
の時、閔損が、
「母在(あ)れば一子(いっし)寒し、母去(ゆ)けば三
子寒し」
と言って父を諌(いさ)めた。
『今ここで母を家から出したら、三人の子供が母の温かい
愛情を受けられずに淋しい思いをします。しかし、母が残
れば私一人が少々淋しい思いをするだけで、下の二人は母
の愛情を受けることができます。どうか、母を家から出さ
ないで下さい。』
と父に意見をしたという話である。
父鶏は雛たちを気にしながらも自分だけは高い止まり木で
眠る。今まで母鶏は凄まじい気迫を以て命懸けで子供たち
を護(まも)ってくれたが、死んだ今、現実の風は厳しい。
夕方になると雛たちは右へ行ったり左へ行ったりしながら
ねぐらを求め、仕方なく団子のように固まって寝る。小さ
な鶏の世界とは云え、人の世も同じように思えるのが余計
に悲しい。

一筆法話

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01  君看よ
02  好事
03  独座
04  皆真なり
05  共に行く
06  好日
07  不食
08  蒼龍の窟
09  家珍
10  風涼し
11  弁じ難し
12  滋味無し
13  月在手
14  無南北
15  短法身
16  這漢
17  同事
18  桃核
19  足別離
20  癡僧
21  元不識
22  不遠
23  不諾
24  也風流
25  無所住
26  阿家牽
27  忘却
28  是非人1
29  是非人2
30  竹一竿
31 斑斑色
32 可憐
33 眞人
34 無慚色
35 不相知
36 三子寒
37 似秋月
38 思鱸客
39 明月夜
40 進一歩
41 千年翠
42 喫茶去
43 殺仏
44 如在
45 声吁吁
46 山高
47 不貪
48 養形
49 夜来雁
50 世上人
51 上樓
52 無暖気
53 嫌揀擇
54 罵李
55 怪力乱神
56 童子不知
57 到遼西
58 火自涼
59 不覚臭
60 無咎
61 為父隠
62 な し
63 な し
64 な し
65 な し


説教はイヤだ!体験がいい!坐禅を組む。

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道樹寺 江口 潭渕(たんえん) dojuzi@ktroad.ne.jp