『眞人(しんにん)』


烏骨鶏(うこっけい)のつがいを戴いた。絹糸のように細
くて真っ白な羽毛は美しく、品がある。小さな小屋にしば
らく飼っていたが、道樹寺の裏は杉林になっていて結構広
いので、放して飼うことにした。野犬や野良猫、イタチな
どの敵に襲われないかと心配したが、今のところ大丈夫で
ある。夕方になれば二羽とも巣に帰り、寄り添うようにし
て休んでいる。私の仕事は朝と夕方の二回、烏骨鶏の小屋
を開閉することである。
朝の四時ころから雄鳥は「コケコッコー」とけたたましく
鳴く。戸を開けてやると、
「お前、開けるのが遅いじゃないか、ちゃんと仕事やれよ。」
と言わんばかりに、せかせかと雄鳥を先頭に外へ出る。外
へ出た烏骨鶏は、さっそく草や虫などの餌を啄ばむのであ
るが、雌鳥はいつも下を向いて餌を食べている。雄鳥も餌
を食べるのであるが、時々辺りを見回して警戒している。
そして、ご馳走を発見したときには、「クックックッ」と
鳴いて雌鳥を呼ぶ。「お前早く食べなさい、私はいいから」
と、言っているように見える。しかし、雌鳥はそれに対し
て当然のごとく「ありがとう」も言わないで、うつむいた
ままそれを食べる。
現代の日本社会は女性が強くなったとか、若い男性が女性
化してきたと言われるが、人類の長い歴史の中で、男はこ
うあらねばならない、女性はこうあるべきだという道徳観、
倫理観が私たちを縛り続けてきた。しかし、本来の人間の
あるべき姿は一体どの姿が本物かといえば、少なくとも外
見や職業や男女の別とは関係ないようだ。男性が髪を伸ば
し柳腰(やなぎごし)でしゃなりしゃなりと歩いても、女
性が化粧もせずに褌(ふんどし)着けてステテコはいて夕
涼みしようがなんら構わない。中身に違いはない。結局、
現代の若者が自由だ、自由だ、俺の勝手だと叫んでも、も
う一つ自由に成りきっていないような気がする。若者がお
寺に来れば若者面している。会社の社長さんは社長面して
お寺の門を潜り、学校の先生はやはり先生面してお寺に来
る。人は他人の目に映る自分を演技し、「あるべき」姿に
こだわり、なかなかそこから抜け出せない。そういう私も
坊さん面して偉そうに対応しているかも知れない。
「臨済録(りんざいろく)」に、
「赤肉團上有一無位眞人」
「赤肉団上(しゃくにくだんじょう)に一無位(いちむ
い)の眞人(しんにん)有り」
という言葉が出てくる。赤肉団上とは、肉体のことである。
私たち一人一人の肉体の内側に学問でも、地位でも、名誉
でもない、偉くも卑しくもなく、何人にも犯されない、無
位の自由な人間が居る、ということである。烏骨鶏のよう
に人が見ていようがいまいが、ありのままの姿で生きられ
たらいいな、と思う。
「烏骨鶏はいいわね。ちゃんと雄が雌を守っているのよ
ね。」と、
言えば、すでにその外見のことに縛られて、内なる一無位
の眞人から遠ざかってしまう。

一筆法話

コピーしてお読み下さい。
01  君看よ
02  好事
03  独座
04  皆真なり
05  共に行く
06  好日
07  不食
08  蒼龍の窟
09  家珍
10  風涼し
11  弁じ難し
12  滋味無し
13  月在手
14  無南北
15  短法身
16  這漢
17  同事
18  桃核
19  足別離
20  癡僧
21  元不識
22  不遠
23  不諾
24  也風流
25  無所住
26  阿家牽
27  忘却
28  是非人1
29  是非人2
30  竹一竿
31 斑斑色
32 可憐
33 眞人
34 無慚色
35 不相知
36 三子寒
37 似秋月
38 思鱸客
39 明月夜
40 進一歩
41 千年翠
42 喫茶去
43 殺仏
44 如在
45 声吁吁
46 山高
47 不貪
48 養形
49 夜来雁
50 世上人
51 上樓
52 無暖気
53 嫌揀擇
54 罵李
55 怪力乱神
56 童子不知
57 到遼西
58 火自涼
59 不覚臭
60 無咎
61 為父隠
62 な し
63 な し
64 な し
65 な し


説教はイヤだ!体験がいい!坐禅を組む。

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道樹寺 江口 潭渕(たんえん) dojuzi@ktroad.ne.jp