『可憐(あわれむべし)』


或るところで般若心経の話をした。
「和尚さん、詰まるところ般若心経とは一体何を書いてあ
るのですかね。」
と、聞かれた。「無」とか「不」、「空」などが繰り返し
出てくる言葉を説明するには一言では言えない。私は返事
に窮した。そして、
「それはですね、私も貴方も死ぬということを書いてある
んですよ。だから、生きてる間にこの命を楽しんで、思い
残すことがないようにしよう、と書いてあるのですよ。」
と答えたら、
「和尚さんは、若いなあ。現代的ですね。努力して、頑張
って、苦労して全うな人生を送るのが私たちの務めじゃな
いですか。」
「一所懸命に生きていくのは誰しも同じことだと思います。
どこで生まれようが、どのような生き方をしようが、若く
ても高齢でも、生きていくのは大変ではないですか。明日
の命がわからないということでは、年寄も子供も平等です
からね。しかめっ面をして生きても一生。笑って生きても
一生。八十年生きても一生、二十年で終わっても一生です
よね。頑張ってると思って生きても一生。楽しんで生きて
も一生ですよね。もし、苦労している最中に人生が切れたら、
そういう人はみんな不幸なんでしょうか。どのみち楽して
生きる方法などないのですから、心だけは楽々悠々と生き
なければ、ついつい愚痴が出たり、人を羨(うらや)んで
みたりと健康に悪いですよ。」
「和尚さんの言うとおりですね。しかし、心はそうであっ
ても頑張り、努力するから暮らしが楽になるのと違います
か。暮らしが楽になれば心も楽になるのと違いますか。」
「色即是空、空即是色と書いてありますから、そうとも言
えるでしょうね。……しかしねえ、」
「可憐無限弄潮人 畢竟還落潮中死」
「憐(あわれ)むべし限りなき潮(うしお)を弄(ろう)
するの人 畢竟(ひっきょう)還(かえ)って潮中(ちょ
うちゅう)に落ちて死す」
「という言葉がありましてね、仏様の限りない慈愛の海に
居ながら、屁理屈ばかりこね回して、教典の意味やら解釈
やらごたごた言っていると、とうとう慈愛が解らずに、海
に溺れ死んでしまうぞ、という意味なのでですが、貴方も
私も溺れ死んでしまいますよ。そうは思いませんか。」
最近ある人から、
「生きてるだけではだめですか?」
という言葉を教わった。私にとっては、今まで探していた
言葉だったので、清々しく嬉しかった。人は何々の為にと
いう言葉で生きている。家族の為に、会社の為に、国の為
に。仏の慈愛に生かされて生きているだけではだめなのだ
ろうか。

一筆法話

コピーしてお読み下さい。
01  君看よ
02  好事
03  独座
04  皆真なり
05  共に行く
06  好日
07  不食
08  蒼龍の窟
09  家珍
10  風涼し
11  弁じ難し
12  滋味無し
13  月在手
14  無南北
15  短法身
16  這漢
17  同事
18  桃核
19  足別離
20  癡僧
21  元不識
22  不遠
23  不諾
24  也風流
25  無所住
26  阿家牽
27  忘却
28  是非人1
29  是非人2
30  竹一竿
31 斑斑色
32 可憐
33 眞人
34 無慚色
35 不相知
36 三子寒
37 似秋月
38 思鱸客
39 明月夜
40 進一歩
41 千年翠
42 喫茶去
43 殺仏
44 如在
45 声吁吁
46 山高
47 不貪
48 養形
49 夜来雁
50 世上人
51 上樓
52 無暖気
53 嫌揀擇
54 罵李
55 怪力乱神
56 童子不知
57 到遼西
58 火自涼
59 不覚臭
60 無咎
61 為父隠
62 な し
63 な し
64 な し
65 な し


説教はイヤだ!体験がいい!坐禅を組む。

ホームページへ戻る

案内所へ戻る

道樹寺 江口 潭渕(たんえん) dojuzi@ktroad.ne.jp