『阿 家 牽』(あこひく)


『新婦騎驢阿家牽』
「新婦、驢(ろ)に騎(の)れば阿家(あこ)牽(ひ)く)
という言葉がある。若嫁さんが驢馬(ろば)に乗っていけ
ば姑(しゅうとめ)がその手綱を引いて行く、という意味
である。現代社会は、若い人がシルバーシートを何食わぬ
顔で占領し、道で老人が重いものを持っていても、我関せ
ずと通り過ぎて行く。こういうことが当たり前の世の中に
なってきたから、
「新婦、驢に騎れば阿家牽く」
と言っても、ピンとこないかも知れない。
これは、どういうことを言っているかといえば、あべこべ
だと言うこと。本来なら姑さんが驢馬に乗り、若嫁さんが
手綱を引いて行かねばならない。それが道徳的な常識の世
界である。この道徳的な世界さへも知らなければ、宗教的
な話をしても解らないと思う。
ある時、修行僧が首山和尚に尋ねた。一体どういうものが
仏というのですか。修行僧といえども禅宗のお坊さんの質
問は怖い。うっかり、
「あー、それは本堂の本尊さんじゃよ」
とでも答えようものなら、こてんぱーにやられて、住職は
首である。修行僧が質問しているのはそういう上っ面の問
題ではない。焼けば焼けるような、叩けば毀(つぶ)れる
ような人間が作った仏さんとは違う。煮ても、焼いても、
け飛ばしても、びくともしない、永遠不滅の仏さんはどう
いうものですか。と、質問しているのである。修行僧にた
いして首山和尚は
「新婦、驢に騎れば阿家牽く」
と見事な答えを示した。あべこべだ!その中にこそ永遠不
滅の真理がある、と首山和尚は答えた。一体どういうこと
だろうか。
Sさんは三十代でご主人を亡くし、女手一つで二人の子供
さんを育て上げ、自分の力で大きな家も建てた。やがて長
男が結婚し、心配された同居も、Sさん生来の明るさで嫁
とも仲よく一緒に住み、二人の孫に囲まれて大事にされて
いた。息子夫婦は近所でも評判の孝行者だった。Sさんの
口癖は、
「主人が亡くなって、人には言えない苦労もしたけど、今
は幸せ。残る願いは、主人の仏壇がある、この家で死にた
い、この家で死なせてくれ、と息子にも頼んであるのよ」
と言っていた。Sさんは昨年暮、倒れて病院に担ぎ込まれ
た。容体は一進一退で、徐々に体力が落ち、とうとうこの
秋に亡くなられた。Sさんの願いもむなしく病院で。
息子さん夫婦はお母さんの気持ちを知っていたので、寿命
が短くなっても、と家に引き取りたかったが、親類の者が
許さなかった。
「そんなことをしたら世間体が悪い」
「お前たち夫婦は冷たいぞ」
散々言われて、とうとう折れた。この時、
「新婦驢に騎れば阿家牽く」
という言葉があることを知ってもらいたかった、と思う。
世間が何を言おうが、あべこべでも構わない。それに振り
回されない筋金入りの信心決定である。それが永遠不滅の
仏に近づく道である。

一筆法話

コピーしてお読み下さい。
01  君看よ
02  好事
03  独座
04  皆真なり
05  共に行く
06  好日
07  不食
08  蒼龍の窟
09  家珍
10  風涼し
11  弁じ難し
12  滋味無し
13  月在手
14  無南北
15  短法身
16  這漢
17  同事
18  桃核
19  足別離
20  癡僧
21  元不識
22  不遠
23  不諾
24  也風流
25  無所住
26  阿家牽
27  忘却
28  是非人1
29  是非人2
30  竹一竿
31 斑斑色
32 可憐
33 眞人
34 無慚色
35 不相知
36 三子寒
37 似秋月
38 思鱸客
39 明月夜
40 進一歩
41 千年翠
42 喫茶去
43 殺仏
44 如在
45 声吁吁
46 山高
47 不貪
48 養形
49 夜来雁
50 世上人
51 上樓
52 無暖気
53 嫌揀擇
54 罵李
55 怪力乱神
56 童子不知
57 到遼西
58 火自涼
59 不覚臭
60 無咎
61 為父隠
62 な し
63 な し
64 な し
65 な し


説教はイヤだ!体験がいい!坐禅を組む。

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道樹寺 江口 潭渕(たんえん) dojuzi@ktroad.ne.jp