『無 所 住』(じゅうするところなし)


「和尚さま、いつも頭をピカピカにしてござるが、毎日剃
りなさるのかね。」
「うんにゃ。頭をそう毎日剃っていたら、髪が痛んで枝毛
になるといかんのでね。」
「冗談ばっかり云って。禿げ頭に枝毛もなかろうに。」
「冗談はあんたさんだがね。もちろん禿げ頭に毛はなかろ
うが、私ゃ、ちびた刷毛ですよ。ちゃんと根子を残して剃
っているよ。白髪もあれば、枝毛もありますよ。だが、禿
げはええなあ、頭を剃る手間がないだけ、楽できるのにな
あ。」
「いろんな悩みがあるもんやな。ほんで、毎日剃りなさる
のかね。」
「お寺の決まりで、五日に一度剃ることになっているよ。
でも法事とか、お葬式のある時は、三日目位の頭でも、前
の晩に剃ってツバキ油を丹念に塗ってくるのさ。」
「それで、ピカピカと光っとるのかね」
「そうだよ、こうやってペッ、ペッと塗るんさ。」
「そりゃあ、唾だがね、またまた冗談に引っかかってしも
うた。でも、和尚さまのように頭を剃っとるお坊さんと、
頭を伸ばしてるお坊さんとでは、やっぱり有り難みが違う
な。」
「そりゃあ、上っ面だけのことで、そんなことで人を判断
しとったら、それこそ引っかかってしまうよ。上っ面で人
間の中身は判らんよ。だいたい、髪を伸ばすということは、
髪の毛に捉われて執着しとるということだし、頭を剃って
つるつるにするということも、髪の毛を剃るということに
捉われて執着しているということだし、どっちもやり過ぎ
たら、格好をつけてるだけだと思うね。」
「そんなら、どの頭が一番ええんかね。」
「どれがええって、そりゃあエヘン、私のようにツルツル
の時もあれば、ボウボウの時もある、この頭が一番ええの
さ。」
「やっぱり自分の頭が一番かね。」
「そう思っときゃ、安心して暮らせるでね。昔、中国のお
坊さんで六祖慧能(ろくそえのう)というお方があって、
この方はずっとボウボウの頭だったが、この人のお陰で、
今の日本や、韓国や台湾の禅宗があるというくらいに立派
な人やった。その慧能禅師はお坊さんになる前、字が読め
なかったし、書けなかった。でも、街を歩いていて、金剛
経(こんごうきょう)というお経を誰かが読んでいて、
『應無所住而生其心』
というところを聞いて、お悟りを開いたんだよ。その意味
はね、
「まさに住する所なくして、その心を生ずべし」
と云って、どんな事にも心を執着させることなく、自由に
心を使いなさいということさ。良いことでも、捉(とら)
われて目くじらたてたら、回りが見えんようになって、心
が不自由になるからね。」
「和尚さまも……、みんなが悟れるようなお経を読まんと
なあ………。」
反省、慙愧の秋の一日の一幕。

一筆法話

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01  君看よ
02  好事
03  独座
04  皆真なり
05  共に行く
06  好日
07  不食
08  蒼龍の窟
09  家珍
10  風涼し
11  弁じ難し
12  滋味無し
13  月在手
14  無南北
15  短法身
16  這漢
17  同事
18  桃核
19  足別離
20  癡僧
21  元不識
22  不遠
23  不諾
24  也風流
25  無所住
26  阿家牽
27  忘却
28  是非人1
29  是非人2
30  竹一竿
31 斑斑色
32 可憐
33 眞人
34 無慚色
35 不相知
36 三子寒
37 似秋月
38 思鱸客
39 明月夜
40 進一歩
41 千年翠
42 喫茶去
43 殺仏
44 如在
45 声吁吁
46 山高
47 不貪
48 養形
49 夜来雁
50 世上人
51 上樓
52 無暖気
53 嫌揀擇
54 罵李
55 怪力乱神
56 童子不知
57 到遼西
58 火自涼
59 不覚臭
60 無咎
61 為父隠
62 な し
63 な し
64 な し
65 な し


説教はイヤだ!体験がいい!坐禅を組む。

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道樹寺 江口 潭渕(たんえん) dojuzi@ktroad.ne.jp