『也 風 流』(またふうりゅう)


修行道場での大切な修行に托鉢がある。三、四人を一組と
して指定された地域へ出掛けるのであるが、遠い組に当た
れば、朝の明けない暗いうちに出発して十キロ、二十キロ
とひたすら目的地まで歩く。厳しくて窮屈な道場から外に
出るということ自体、少なからぬ解放感を感じるが、なん
といっても托鉢の楽しみは、点心(てんじん)にある。道
場でいう点心(てんじん)とは、雲水(修行僧)のために
信者さんたちが出してくれるお昼ご飯のことである。
道場内では究極のダイエット食であるから、それを知って
いる信者さんたちはこの時とばかり、ご馳走責めで雲水を
可愛がってくれる。
久留米の梅林僧堂で修行していたとき、河合さんという中
華食堂の御主人も雲水を可愛がり、雲水が点心をお願いに
行くと、中華丼でも何でも店にあるメニューの中から好き
なだけ、とにかく腹一杯食べてくれ、と云って、熱心に勧
めてくれる。雲水は、いつも腹が空(す)いているから、
丼物の五杯や六杯は平気で食べてしまう。そういう雲水の
食べている姿を見て、御主人は眼を細めて嬉しそうに見て
いてくれた。
ある時、私は聞いた、
「ご商売ものをこんなに頂いて、申し訳ありません。あと
のお客さんに差しつかえありませんか。」
「いやいや、雲水さんに食べていただくのが私の罪滅ぼし
なんですよ。」
と言って、河合さんはこれまでのいきさつや、身の上話を
聞かせてくれた。私は話を聞きながら、思わず襟(えり)
を正した。河合さんの話によれば、五年ほど前までは、梅
林寺から托鉢に廻ってくる雲水の声が聞こえてくると、い
つもじっと奥さんと二人で部屋のかげに隠れて手を合わせ、
家を通り過ぎるのを待っていた。その頃は貧しくて、托鉢
僧に差し出す小銭さえなく、いつも心の中で申し訳ない、
と思っていたのである。それが中華食堂を始めて、やっと
生活に余裕が出来て、
「私たちも雲水さんにお昼ご飯の一杯でも、出せるように
なった」
と二人で喜び、また、人並みに御先祖の供養も出来るよう
になったからと、梅林寺の墓地を求め、毎朝五時には、き
まってお墓参りにも行けるようになった、……と。
この話を伺って一年も経たないうちに、あの河合さんが癌
のために亡くなられ、中華食堂は閉められた。私はショッ
クを受けた。なぜ、どうしてあの人が死ななければならな
いのか。これからやっと普通の生活ができるという時に。
あまりに非情ではないか、神も仏もないものだ。河合さん
は信仰して一体何を得たのか…。もう、あの時から二十年
経った今、禅語の、
「不風流処也風流」
(風流ならざる処も、也(ま)た風流)
という、一語を河合さんに贈りたい。精一杯生きた河合さ
ん自身が風流三昧の一生であった。

一筆法話

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01  君看よ
02  好事
03  独座
04  皆真なり
05  共に行く
06  好日
07  不食
08  蒼龍の窟
09  家珍
10  風涼し
11  弁じ難し
12  滋味無し
13  月在手
14  無南北
15  短法身
16  這漢
17  同事
18  桃核
19  足別離
20  癡僧
21  元不識
22  不遠
23  不諾
24  也風流
25  無所住
26  阿家牽
27  忘却
28  是非人1
29  是非人2
30  竹一竿
31 斑斑色
32 可憐
33 眞人
34 無慚色
35 不相知
36 三子寒
37 似秋月
38 思鱸客
39 明月夜
40 進一歩
41 千年翠
42 喫茶去
43 殺仏
44 如在
45 声吁吁
46 山高
47 不貪
48 養形
49 夜来雁
50 世上人
51 上樓
52 無暖気
53 嫌揀擇
54 罵李
55 怪力乱神
56 童子不知
57 到遼西
58 火自涼
59 不覚臭
60 無咎
61 為父隠
62 な し
63 な し
64 な し
65 な し


説教はイヤだ!体験がいい!坐禅を組む。

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道樹寺 江口 潭渕(たんえん) dojuzi@ktroad.ne.jp