『桃 核』(とうかく)


法事の席などで時々、もの知りのわけ知り爺さまに出会う。
「人間は、苦労せにゃいかん。わしらの若い時分は食うも
のが何もなくて、そりゃあ貧しかった。だから、一生懸命
に働いてきた。そして、戦争に引っ張られ、大砲の弾の中
をはいずり回って、死ぬような目に何度も会ったよ。そん
な極限状態を経験してきたから、わしらは苦しいことの一
つや二つはいつでも乗り越えられるんだ。和尚様の修行も
大変だったろうけれど、わしらは戦争を経験して、生きる
か死ぬかのところを潜り抜けてきたんですよ。お寺さんの
修行は軍隊ほど厳しくはないでしょうな〜。
それにしても今の若い者は、理屈が上手で、贅沢ばかりし
ておる。わしらは一生懸命に働いてきたというのに、暇さ
え有れば遊ぶことばかり考えとる。孫のこともちゃんと躾
けをせにゃならんのに、こちらが口をだせば若嫁さんがプ
リプリと怒るので、へたに口も出せんよ。ほんとうに、世
の中、まちがった方向へ行っとるよ。そもそも政治家が悪
い……云々。」
その言、宜なるかな、である。
「あなたは偉い!あなたの苦労に比べたら私の苦労など、
とてもとても及びません。提灯に釣鐘…月と鼈…いや、象
の鼻糞と蚤の鼻糞ほどかけ離れております。なるほど、四
〇代の私でも二〇代の若者にはついて行けません。まして
や、八〇過ぎのあなた様には今の若者はバテレンか妖怪、
物の怪、はたまた宇宙人にも等しいでしょう。古き良き日
本が失われていくのはどんなにか淋しいことでしょう。わ
かります。わかります。信号が青から赤になるのも、空か
らときどき雨が降るのも、今の若者が正座もよう出来ずに
独活(うど)のように背が伸びるのも、すべて世の中が甘
ったれているからです。一人や二人は死んでもかまわない
から、今の若者を零下四〇度の酷寒のシベリヤへパンツ一
枚で連れていき、生活させると世の中はもう少しましにな
ると思います。ほんとに……。」
『千年桃核』(せんねんのとうかく)という言葉がある。
千年もの時間をかけてコチコチに堅くなった桃の種のこと
で、手が付けられぬほどの石頭の持ち主のことを指してい
う。桃には魔除けや長寿を得られるという、霊力がある、
ということになっているから、これを後生大事に振り回さ
れると余計に始末が悪いこととなる。禅宗のお坊さんが修
行にいくのは、私は苦労したから正しいという世間一般に
ありがちな、固定観念という垢を落とすために道場へ行く
のである。苦しむために、苦労するために修行する仏教は
この世に存在しない。もし、そう思って修行したら仏教で
はなくなる。

一筆法話

コピーしてお読み下さい。
01  君看よ
02  好事
03  独座
04  皆真なり
05  共に行く
06  好日
07  不食
08  蒼龍の窟
09  家珍
10  風涼し
11  弁じ難し
12  滋味無し
13  月在手
14  無南北
15  短法身
16  這漢
17  同事
18  桃核
19  足別離
20  癡僧
21  元不識
22  不遠
23  不諾
24  也風流
25  無所住
26  阿家牽
27  忘却
28  是非人1
29  是非人2
30  竹一竿
31 斑斑色
32 可憐
33 眞人
34 無慚色
35 不相知
36 三子寒
37 似秋月
38 思鱸客
39 明月夜
40 進一歩
41 千年翠
42 喫茶去
43 殺仏
44 如在
45 声吁吁
46 山高
47 不貪
48 養形
49 夜来雁
50 世上人
51 上樓
52 無暖気
53 嫌揀擇
54 罵李
55 怪力乱神
56 童子不知
57 到遼西
58 火自涼
59 不覚臭
60 無咎
61 為父隠
62 な し
63 な し
64 な し
65 な し


説教はイヤだ!体験がいい!坐禅を組む。

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道樹寺 江口 潭渕(たんえん) dojuzi@ktroad.ne.jp