『同 事』(どうじ)


大震災からちょうど一ヶ月目の二月一七日に、亡くなられ
た方々の供養に神戸ヘ行ってきた。焼け出された地区は、
一面赤茶けた錆の色と灰の海であった。物見遊山に来たの
ではないぞと思いつつ、上目遣いにきょろきょろと辺りを
窺い見たが、あまりの被害の大きさに、一言も声が出ない。
人々の眼は虚ろで何も考えたくないという表情に見え、行
き交う人も都会の活気は見られなかった。視察に来ていた
会社役員と思われる人の驚きの声が聞こえてきた。
「あの時の大空襲と一緒や……。」
駅で有志の和尚たちを待っている間に女子学生が二、三人
或いは四、五人と連れ立って下校しているのに出会った。
さすがに若い人たちの雰囲気は明るい。ぴちぴちとした会
話や笑い声が聞こえてくると、重苦しい心がフワッとと軽
くなるような気がして、復興には若い人や子供の声が救い
になると思った。
被害の大きかった鷹取駅から兵庫駅周辺の、瓦礫の中に手
向けてある花を目印に、お経を読んで回ることになり、お
経を唱え始めると、どこからともなく家族や知人と思われ
る人たちが出てきた。読経中、後ろでお参りしている中年
の男性、お婆さん、青年それぞれの方が亡き人に対する想
いで涙を流し、一心に合掌していた。有志の和尚たちも声
が詰まり、涙を拭う。つまるところ、神戸へ行って何をし
てきたかと言えば、満足にお経も読まずに泣いてきただけ
である。
道元禅師は、
「同事というは不違(ふい)なり、自にも不違なり、他に
も不違なり」
ということを『正法眼藏』に書き記されている。同事とは
菩薩が形を変えて衆生と同じ仕事に勤しみ、同じ心になる
ことである。相手と同じ気持になって共に悩み、共に苦し
み、共に涙を流す。菩薩は人々の心の中に入っていくため
に衆生と違わない心(不違)になられ、何もしてあげられ
ないけれど、いつも私の悩みや苦しみと共にそっと涙を流
していてくれる。そしてそのことを私達は知らない。
そういえば、幼いころ病気になったとき母は枕元に座り、
微笑んで私の手を握ってくれた。そして、
「代わってやりたいけどね。」
といってじっと見守ってくれたことを思いだす。この度の
震災に遭われた方々が一日も早く立ち直られることを祈る
と共に、何もしてあげられないけれど、人知れず涙を流し
ている善男子、善女人が全国にいることを想う如月である。

一筆法話

コピーしてお読み下さい。
01  君看よ
02  好事
03  独座
04  皆真なり
05  共に行く
06  好日
07  不食
08  蒼龍の窟
09  家珍
10  風涼し
11  弁じ難し
12  滋味無し
13  月在手
14  無南北
15  短法身
16  這漢
17  同事
18  桃核
19  足別離
20  癡僧
21  元不識
22  不遠
23  不諾
24  也風流
25  無所住
26  阿家牽
27  忘却
28  是非人1
29  是非人2
30  竹一竿
31 斑斑色
32 可憐
33 眞人
34 無慚色
35 不相知
36 三子寒
37 似秋月
38 思鱸客
39 明月夜
40 進一歩
41 千年翠
42 喫茶去
43 殺仏
44 如在
45 声吁吁
46 山高
47 不貪
48 養形
49 夜来雁
50 世上人
51 上樓
52 無暖気
53 嫌揀擇
54 罵李
55 怪力乱神
56 童子不知
57 到遼西
58 火自涼
59 不覚臭
60 無咎
61 為父隠
62 な し
63 な し
64 な し
65 な し


説教はイヤだ!体験がいい!坐禅を組む。

ホームページへ戻る

案内所へ戻る

道樹寺 江口 潭渕(たんえん) dojuzi@ktroad.ne.jp