『月在手』(つきてにあり)


私は、高校を卒業して博多の光国寺という禅宗のお寺へ誰
の紹介状もなしに飛び込み、弟子となった。禅宗のお坊さ
んのなにものにもとらわれない、からりとした生き方や、
なにより抹香臭くない豪快なところに憧れていたかるであ
る。
人間というものは虫がいいもので、それまで勉強などした
ことなかったのに、俄然、仏教について本格的な勉強がし
たくなり師匠に、
『先ずは大学へ行つて勉強したいんですが…………。』
と云つたら師匠は、
『馬鹿もん!何処の馬の骨だか分からん者を大学に行かせ
られるか。先に修行道場へ行って来い。お前さんの願心が
本物だったら道場を逃げ出さないだろうから、それをやっ
てからにしろ。』
と云い、翌日から修行道場へ行くための基礎教育でしぼら
れた。
ある時、朝の勤行のあと毎日決まってやる座敷の掃除をし
ていたら、
『おい!四角い部屋を丸く掃くなよ。』
と注意された。和尚は事務室で書き物をしていたので、
『おかしいな……和尚からこちらは見えていないのに、部
屋を四角に掃いているのか、丸く掃いているのかどうして
判るんだろう……』
と思い、妙な緊張感をおぼえて一所懸命に掃除した。
『水を掬(きく)すれば月、手に在り。花を弄(ろう)す
れば香、衣に満つ』
という唐詩を禅寺では好んで用いる。禅寺の修行は、何時
でも、何処でも、この時、この場所が本物でなければなら
ない。水を掬(すく)えば水と一つになり、花をもてあそ
んでいれば花と一つになる。箒(ほうき)を手にすればも
ちろん箒(ほうき)と一つにならなければならない。和尚
は掛け出しの小僧が箒(ほうき)と一つになっていない事
くらいは、その音を聞いただけで見破つたのだ。
禅宗のお坊さんは毎日の綿密な修行の積み重ねで、耳には
聞こえぬ声を聞き、目には見えない心を見ていく事が出来
るのである。あれから随分たったが箒(ほうき)が畳の上
を擦(す)る音を聞いて、気持ちが入らずに丸く掃いてい
るのか、綿密に隅々まで掃いているのかがなんとか判るよ
うになってきた。そこで和尚の真似をして後輩の僧に、
『おい!四角い部屋を丸く掃くなよ。』
と云う。ところが最近の後輩は、
『見てもいないのに何を言うんですか。小言さへ言えばい
いと思つてるんじやないの。』という顔をする。そういう
時には実演して見せて、箒(ほうき)の音によって違いが
ある事を証明してやる。知りたい方は道樹寺へお越し下さ
い。

一筆法話

コピーしてお読み下さい。
01  君看よ
02  好事
03  独座
04  皆真なり
05  共に行く
06  好日
07  不食
08  蒼龍の窟
09  家珍
10  風涼し
11  弁じ難し
12  滋味無し
13  月在手
14  無南北
15  短法身
16  這漢
17  同事
18  桃核
19  足別離
20  癡僧
21  元不識
22  不遠
23  不諾
24  也風流
25  無所住
26  阿家牽
27  忘却
28  是非人1
29  是非人2
30  竹一竿
31 斑斑色
32 可憐
33 眞人
34 無慚色
35 不相知
36 三子寒
37 似秋月
38 思鱸客
39 明月夜
40 進一歩
41 千年翠
42 喫茶去
43 殺仏
44 如在
45 声吁吁
46 山高
47 不貪
48 養形
49 夜来雁
50 世上人
51 上樓
52 無暖気
53 嫌揀擇
54 罵李
55 怪力乱神
56 童子不知
57 到遼西
58 火自涼
59 不覚臭
60 無咎
61 為父隠
62 な し
63 な し
64 な し
65 な し


説教はイヤだ!体験がいい!坐禅を組む。

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道樹寺 江口 潭渕(たんえん) dojuzi@ktroad.ne.jp