『弁じ難し』(べんじがたし)


僧堂の朝は午前三時から始まる。起こされて布団をたたみ、
直ちに洗面、トイレを済ませて袈裟(けさ)、衣(ころも)
を着ける。起きてからここまで約五分程の時間を要する。
しかし、慣れないうちは右往左往、ドタバタするばかりで
先輩の雲水の罵声を浴びせられたり、拳骨(げんこつ)が
飛んできたりする。
午前四時頃に粥座(しゅくざ)といって朝ご飯を頂く。ご
飯といってもご飯ではない。お粥である。おかずは沢庵少
々。「粥座三年」と云つて、お粥が咽喉(のど)に詰まり
そうなやかましい規則がある。三杯までお代わりをしてよ
いが、米の粒など数えるほどしか入ってない。
『おかしいな〜。今朝は蜆(しじみ)が入ってる。』
と思いきや、自分の目玉が椀の中に写つていたというほど
に、さらさらとした粥である。
天井が写つて見えるので天井粥ともいう。昼は斉座(さい
ざ)といって、麦と米が半々の真っ黒な麦飯にみそ汁、沢
庵少々。みそ汁といっても豆腐やワカメなどは入つてない。
豆腐やワカメ、コン二ャクなどは御馳走で、お寺の歴代の
住職の御命日などに当たらなければ口に入らない。市場に
落ちている人参の葉っぱや、近郊の農家で托鉢してきた大
根などが汁の具である。
初めて典座(てんぞ)と云う役目の台所当番になった時に、
馬鈴薯の皮をむいてみそ汁の具に入れたら、
「おまえは食べ物を粗末にして恥ずかしいと思わんのか」
といって、張り倒された。皮を剥(む)いたのでは、雲水
に供養して頂いた信者さんに申し訳ないのである。台所で
ご飯粒の一粒、野菜の切れ端の一切れでも誤って下水に流
そうものならお寺の重大事であり、下水を見ればその修行
がどれほどのものかがわかる。
梅林寺では台所から出る下水は、一粒の米、一切れの野菜
でも無駄にしていないことを、誰が見ても判るように道路
までの溝は蓋をしていない。
夜は薬石(やくせき)といって朝と昼の残りで雑炊を作る。
入門したばかりの青年僧が余裕を持つて修行に瀞めば、つ
い妄想、煩悩で頭の中がいっぱいとなる。そういう雲水達
を強制的に三昧境に追い込む為に、眠らせない、食わせな
いという荒療治をやる。朝は三時から夜は十ニ時過ぎまで
掃除、作務(さむ)という労働、托鉢、そして坐禅という
ように余暇をほとんど与えない。
『家、貧にして粗食を弁じ難く。 事、忙しゅうして草書に
及ばず。』
という禅語がある。だれに恥ずる事もない貧乏だから、
「粗食です」と客に言い訳することもなく、食う事で心を
煩わす事はない。草書とは下裏白きの事で、あまりに忙し
いから、下書きなどできない。その場その場が、ぶっつけ
本番の真剣勝負である。すなわち自分の不甲斐なさ以外で
悩む余裕などない。

一筆法話

コピーしてお読み下さい。
01  君看よ
02  好事
03  独座
04  皆真なり
05  共に行く
06  好日
07  不食
08  蒼龍の窟
09  家珍
10  風涼し
11  弁じ難し
12  滋味無し
13  月在手
14  無南北
15  短法身
16  這漢
17  同事
18  桃核
19  足別離
20  癡僧
21  元不識
22  不遠
23  不諾
24  也風流
25  無所住
26  阿家牽
27  忘却
28  是非人1
29  是非人2
30  竹一竿
31 斑斑色
32 可憐
33 眞人
34 無慚色
35 不相知
36 三子寒
37 似秋月
38 思鱸客
39 明月夜
40 進一歩
41 千年翠
42 喫茶去
43 殺仏
44 如在
45 声吁吁
46 山高
47 不貪
48 養形
49 夜来雁
50 世上人
51 上樓
52 無暖気
53 嫌揀擇
54 罵李
55 怪力乱神
56 童子不知
57 到遼西
58 火自涼
59 不覚臭
60 無咎
61 為父隠
62 な し
63 な し
64 な し
65 な し


説教はイヤだ!体験がいい!坐禅を組む。

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道樹寺 江口 潭渕(たんえん) dojuzi@ktroad.ne.jp