『 蒼 龍 の 窟 』


昭和四十八年春、私は禅僧としての基礎教育をして頂いた
師匠の厳命により久留米市の梅林寺僧堂という道場に入門
した。梅林寺はその修行が荒いことで有名であり、師匠か
ら、
『お前、遺書を書いて行け。』
と、云われた時には胸がドキドキした。涅槃金と云って修
行中に死んでも葬式ぐらいは出してもらえるようにと、い
くばくかのお金を包んでもらい、網代笠に脚半、わらじ掛
けの装束で出立した。梅林寺の門を潜ると緊張で喉がから
からになっているのがわかった。
道場の大きな玄関の上がり框(かまち)に腰を下ろし深々
と頭を下げておもむろに、
『た〜の〜み〜ましょ〜』
と声を掛ける。やや遅れて奥の方から威厳のある虎が吠え
るような声で、
『ど〜れ〜』
と、返事が返り、係の雲水(修行僧)が出てきて、ぴたり
とお辞儀をした。
『いずこより』
と、一言聞くのみである。この手順はどこの道場へ行って
も同じことで、大差はない。私は師匠から教わったとおりに、
入門の願書、誓約書等を封筒に入れて差し出し、
『福岡市東区大字土井 光国寺住職 馬場義光、徒弟 江口
潭渕 貴道場に掛搭(入門)致したく参りました。よろし
くお取次をお願い申します。』
と、間違えないように一気に口上を述べた。取次の雲水は
しばらく待つように云って、奥へ引き返し、十五分程経っ
て書類をつき返し、丁寧に、しかも人を食ったように、
『只今、当道場は満衆につき供科(くか=食べ物)も回り
かねます故、掛搭の儀、固くお断り致します。更にお見か
け致しますところ、きゃしゃな身体つき、当道場ではとう
てい持ちますまい。他にも京都の妙心、大徳、岐阜の正眼、
虎溪等々道場は多々あります故、足もとの明るい内にどう
ぞそちらの方へお廻り下さい。』と、云いさっさと引き上
げてしまった。
此処で、あっそうかと云って引き下がっては何にもならない。
そのまま土下座を決めこむ訳である。玄関の上がり段に斜
めに坐って土下座をするものだから、キリキリと腰が痛 む。
二日間の坐り込みの後、やっと仮に上げてもらえる。これ
が道場の一次試験である。
『為君幾下蒼龍窟』(君が為に幾たびか下る蒼龍の窟)
という言葉は、道の為には、危険を冒してまでも龍の珠が
欲しい。また、人生何の道を歩んでも真剣であればあるほ
ど、その道は厳しい、と解釈している。

一筆法話

コピーしてお読み下さい。
01  君看よ
02  好事
03  独座
04  皆真なり
05  共に行く
06  好日
07  不食
08  蒼龍の窟
09  家珍
10  風涼し
11  弁じ難し
12  滋味無し
13  月在手
14  無南北
15  短法身
16  這漢
17  同事
18  桃核
19  足別離
20  癡僧
21  元不識
22  不遠
23  不諾
24  也風流
25  無所住
26  阿家牽
27  忘却
28  是非人1
29  是非人2
30  竹一竿
31 斑斑色
32 可憐
33 眞人
34 無慚色
35 不相知
36 三子寒
37 似秋月
38 思鱸客
39 明月夜
40 進一歩
41 千年翠
42 喫茶去
43 殺仏
44 如在
45 声吁吁
46 山高
47 不貪
48 養形
49 夜来雁
50 世上人
51 上樓
52 無暖気
53 嫌揀擇
54 罵李
55 怪力乱神
56 童子不知
57 到遼西
58 火自涼
59 不覚臭
60 無咎
61 為父隠
62 な し
63 な し
64 な し
65 な し


説教はイヤだ!体験がいい!坐禅を組む。

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道樹寺 江口 潭渕(たんえん) dojuzi@ktroad.ne.jp