『好 日』(こうにち)


今は亡き師匠と、新幹線に乗った時のことである。車内に
乗り込むと師匠は私に、
『ビールでも飲もうか』
と云つた。私は早速ビュッフェへ行き、ビールとつまみを
買つてきて、二人でのどを潤していた。五分程過ぎた頃、
後ろの席でお婆さんが騒ぎ出した。
『あれ〜。これは何だかちがう景色だ。こんな景色見た事
ない。何だか逆に走つているみたいだ。あ〜、これは困っ
た。どうしよう〜。』
お婆さんは新幹線の上りと下りを間違えて乗つてしまった
らしい。通りかかった車掌さんに、この新幹線は止められ
ないのかなどと聞いていたが、
『だめですね。この列車はひかり号ですから、次の駅まで
約一時間は乗つていただくことになります。そこで乗り換
えて下さい。』
と事務的に宣告された。
それから十分ほど過ぎても、
『あ〜。こまった、こまった。情けないな〜。ほんとに失
敗したな〜。』
と、お婆さんの口からは愚痴やため息が出るばかり。私も、
気の毒にと思つたが、どうすることも出来ない。
すると、師匠が突然起ちあがり、
『わしが引導を渡して来てやる』
と云つて、お婆さんの席まで行き、
『おぱあちやん、おぱあちやん、まちがつて乗つてしまっ
たものは、もう仕方がないんだよ。こうなったら景色でも
楽しまなければ、おぱあちやんの損だよ。』
と、云つた。意外にもその一言でお婆さんは納得したのか、
駅弁を買つて食べ始めた。
中国の雲門(うんもん)禅師に、
『日々是好日』(にちにち これこうにち)
という言葉が有る。毎日が良い日ということだが、そうそ
う楽々悠々と行かないのが人生。病気もすれば怪我もする、
間違いも起こせば大失敗もする。では何故『日々是好日』
と過ごせるのか。それは実は簡単なことである。毎日を過
ごすに必要以上にドタバ夕としない事である。例のお婆さ
んが死ぬ間ぎわだったら、乗り換えの駅で、冥土の土産で
も買つただろうか………。私ならそうする………。

一筆法話

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01  君看よ
02  好事
03  独座
04  皆真なり
05  共に行く
06  好日
07  不食
08  蒼龍の窟
09  家珍
10  風涼し
11  弁じ難し
12  滋味無し
13  月在手
14  無南北
15  短法身
16  這漢
17  同事
18  桃核
19  足別離
20  癡僧
21  元不識
22  不遠
23  不諾
24  也風流
25  無所住
26  阿家牽
27  忘却
28  是非人1
29  是非人2
30  竹一竿
31 斑斑色
32 可憐
33 眞人
34 無慚色
35 不相知
36 三子寒
37 似秋月
38 思鱸客
39 明月夜
40 進一歩
41 千年翠
42 喫茶去
43 殺仏
44 如在
45 声吁吁
46 山高
47 不貪
48 養形
49 夜来雁
50 世上人
51 上樓
52 無暖気
53 嫌揀擇
54 罵李
55 怪力乱神
56 童子不知
57 到遼西
58 火自涼
59 不覚臭
60 無咎
61 為父隠
62 な し
63 な し
64 な し
65 な し


説教はイヤだ!体験がいい!坐禅を組む。

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道樹寺 江口 潭渕(たんえん) dojuzi@ktroad.ne.jp