『 皆な真なり』


私は中学、高校と剣道を続けたが、高校の剣道部に入部
した時、剣道を習うのが初めてという男が入部してきた。
他の部員たちが稽古着と防具を身にまとい、さっそうと練
習をしている横で、体操服姿で彼は黙々と竹刀を振り続け
た。私は彼の一途さに惹かれた。
十日ほど過ぎた頃、部活の帰りに彼を誘い、歩きながら彼
に聞いた。
『お前泳げるのか?』
『うん。』と彼は答えた。
『それなら俺に泳ぎ方を教えてくれ。』と私は唐突に云った。
  彼は目をぱちぱちさせて口を開けたまま私を見ていた。実
は私は高校生になっても、英語で云うところのハンマ−で
あった。かまわずに私は続けた。
  『おまえが俺に水泳を教えてくれたら、俺はおまえに剣道
を教えてやる。卒業するまでに二段の免状が取れるように
してやる。たのむ!』と云った。
それ以来二人は懸命に頑張り、そしてそれぞれの目的を達
成した。
  話はここからである。そういう訳でお互いに休日の時も行
き来した。彼はお寺の息子で彼の父は禅宗の僧侶だった。
ある時、彼の父である和尚さんから、禅宗には禅問答とい
うものがあって、一つの問題を解くのに、二、三年もの長
い間考え続けるという事を教わった。また、一つの問題が
本当に解れば、人間をやっている事が楽しくてたまらない
人生になる事。そういう問答が千七百題も有るという事を
知った。修行には学歴や知識というものが、それほどの役
にも立たないという事を聞いた。
何よりも禅の修行は線香臭くなく、男性的であっけらかん
としているという言葉が、血気盛んな私の気を引いた。
母は進学校に入学した私が、当然大学へ行くものだと思っ
ていた。私は意を決して、
『禅寺に入って小僧生活から始めたい』と母に云った。結
果は、
『おまえは、社会の落後者だ!世の中の生存競争について
行けないものだから、格好をつけて逃げているだけだ。落
ちこぼれだ!』
と罵られた。後年知った禅語に、
『随処作主 立処皆真』
(ずいしょに主となれば りっしょ皆なしんなり)
という言葉がある。解りやすくこじつければ
『かたつむり どこで生きても 己が家』とでも言えよう
か。落ちこぼれであれ、落後者であれ、自分自身を見失わ
なければ心は軽い。今では母の罵倒もなつかしく感謝して
いる。

一筆法話

コピーしてお読み下さい。
01  君看よ
02  好事
03  独座
04  皆真なり
05  共に行く
06  好日
07  不食
08  蒼龍の窟
09  家珍
10  風涼し
11  弁じ難し
12  滋味無し
13  月在手
14  無南北
15  短法身
16  這漢
17  同事
18  桃核
19  足別離
20  癡僧
21  元不識
22  不遠
23  不諾
24  也風流
25  無所住
26  阿家牽
27  忘却
28  是非人1
29  是非人2
30  竹一竿
31 斑斑色
32 可憐
33 眞人
34 無慚色
35 不相知
36 三子寒
37 似秋月
38 思鱸客
39 明月夜
40 進一歩
41 千年翠
42 喫茶去
43 殺仏
44 如在
45 声吁吁
46 山高
47 不貪
48 養形
49 夜来雁
50 世上人
51 上樓
52 無暖気
53 嫌揀擇
54 罵李
55 怪力乱神
56 童子不知
57 到遼西
58 火自涼
59 不覚臭
60 無咎
61 為父隠
62 な し
63 な し
64 な し
65 な し


説教はイヤだ!体験がいい!坐禅を組む。

ホームページへ戻る

案内所へ戻る

道樹寺 江口 潭渕(たんえん) dojuzi@ktroad.ne.jp